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2004/05/09

ディズニーVSマイケル・ムーア騒動から派生した誤解と解説

ニューヨークタイムズが2004/05/05に伝えた「ディズニーによるブッシュ批判映画配給禁止」騒動は、一部のメディアにおいて事実誤認により思わぬ方向にミスリードされているようなので、ちょっと解説してみたい。(ムーア自身もミスリードを懸念して、5月7日付けメッセージで事実関係について説明している。日本語版公式サイトにも同メッセージが掲載中

今回の騒動をめぐるミスリードとは、要約すればおよそ次のようなものである。

マイケル・ムーアは、2004年5月4日にディズニーから配給禁止の要求を知ったと言ったが、ディズニーは配給禁止を1年前に決定しており、ムーア監督自らPR目的のために今回の騒動を起こしたことを認めた。つまり、カンヌ映画祭出品直前に配給禁止騒動をひきおこし、宣伝に利用するために、ムーア監督は事実関係を隠していた


このようなミスリードを含んでいる例として、国内においても、例えば以下のようなブログ記事がある。

この両ブログが、その論拠としてリンクしているのは、英インディペンデント紙に掲載されたアンドリュー・ギャンベル記者の記事で、引用の際に両ブログ上に記述されている記事タイトルは「Moore admits Disney 'ban' was a stunt(ムーアがディズニーの配給禁止騒動を演出(stunt)と認めた)」となっている。

しかしこの、リンク時に掲載された記事見出しを鵜呑みにしてはいけない。リンク先の記事の中にそんな事実は存在しないし、同記事の実際の見出しは「Moore accused of publicity stunt over Disney 'ban'(ディズニー検閲をめぐり宣伝行為と批判されたムーア監督) 」である。つまり、マイケル・ムーアが演出(stunt)を認めたなどとは全く書かれていない。「Moore admits Disney 'ban' was a stunt」という記事見出しは事実と違うだけでなく、元記事には実在していないのである

アンドリュー・ギャンベル記者は、(悪意がないと仮定すれば)どうやら誤解に基づいてこの記事を書いているようだ。記事を読む限り、ギャンベル氏は「ムーア監督は1年前から配給禁止の報告を受けていたのに、今週になって突然ディズニーが配給禁止を決定したかのように振舞った」と思い込んでいる。例えば、記事中の第4-5パラグラフ部分では、以下のように書かれている。(強調とリンクはDeepthroatによる)


In an indignant letter to his supporters, Moore said he had learnt only on Monday that Disney had put the kibosh on distributing the film, which has been financed by the semi-independent Disney subsidiary Miramax.

But in the CNN interview he said: "Almost a year ago, after we'd started making the film, the chairman of Disney, Michael Eisner, told my agent he was upset Miramax had made the film and he will not distribute it."

翻訳:
ファンに宛てた怒りあふれる手紙の中で、ムーアは月曜日(5/4)になってはじめて、ディズニーが子会社であるミラマックスによって支援された作品の配給を阻止することを知ったと言っている。

しかしCNNのインタビューでは、ムーアはこう言っている:「1年ぐらい前、映画を撮り始めてからすぐに、ディズニーのCEOであるマイケル・アイズナーが、私のエージェントに対して、作品を支援したミラマックスに怒り、配給するつもりがないことを話した」



ファンに宛てた怒りあふれる手紙というのは、ニューヨークタイムズで第一報が報じられた際の公式サイト上の5月5日付けメッセージのことである。

そして、このメッセージをよーく読んでみれば、ギャンベル記者の解釈が間違っていることがわかる。手紙の第二パラグラフのこの部分である。(強調はDeepthroatによる)


Yesterday I was told that Disney, the studio that owns Miramax, has officially decided to prohibit our producer, Miramax, from distributing my new film, "Fahrenheit 9/11."

つまりムーアは、「昨日ディズニーが“公式に”配給を禁止したことを知らされた」と書いているのであり、非公式には配給禁止をめぐるやりとりがあったことを否定していない。(さらに手紙を読み進めれば、一年前からトラブルがあったことが言及されている

だいいち、今回のディズニーの配給禁止を最初に伝えたニューヨークタイムズの記事の中で、ムーアが1年前にディズニーから配給しない旨を「非公式に」知らされていたことはすでに言及されているのだ。(ギャンベル氏はこの記事を読んでいないのだろうか?騒動の第一報なのに・・・)同記事の該当場所は第9パラグラフである。以下に引用する。(強調はDeepthroatによる)

Mr. Moore's agent, Ari Emanuel, said Michael D. Eisner, Disney's chief executive, asked him last spring to pull out of the deal with Miramax.

翻訳:
ムーア氏のエージェントであるアリ・マニュエル氏によれば、昨春、ディズニー社CEOのマイケル・アイスナーはマニュエル氏に、ミラマックス社との関係を取りやめるように依頼していたとのこと。

そして、ギャンベル氏自身、ムーアが宣伝のために工作をしたとは断言できないことを意識して、自分の記事中でそのように書いている。それは第7パラグラフから引用した次の文章である。(強調はDeepthroatによる)


But Moore's publicity stunt, if that is what is, appears to be working.
翻訳:
しかしムーア氏の演出は、まさしくそのとおりであったとしたら、うまく作用しているようである。

さらに、ギャンベル氏の記事で引用されていたCNNのインタビューにおいても、ムーアの説明は一貫しているので、CNNの記者もムーアが(配給禁止を)いつ知ったかについては追求されていない。同インタビューから該当部分を以下に引用する。(強調はDeeptroatによる)

ゴラーニ記者:
ディズニーとのやりとりはどういうものだったのですか?

ムーア:
1年ぐらい前、映画を撮り始めてからすぐに、ディズニーのCEOであるマイケル・アイズナーが、私のエージェントに対して、作品を支援したミラマックスに怒り、---ディズニーはミラマックスを所有しているね---そして、私の作品を配給するつもりがないことを話したんだ。

ミラマックスの話では、心配はいらない、映画を撮り続けろ、金は出すという話だった。ディズニーのお金は昨年ずっと私たちの元に振り込まれたんだ。先週作品を完成させたので、来週にはカンヌ映画祭に出品するつもりだ。

今週月曜日に、ディズニーから、作品を配給するつもりがないという最終通告があった。連中は私のエージェントに、ブッシュファミリーの機嫌を損ねたくないと説明した。特にフロリダ州知事のジェブ・ブッシュの機嫌をね---なぜなら、ディズニーは税制面で優遇されていたからだ。(以下略)

ムーアに配給禁止をいつ知ったかを聞くかわりに、CNN記者が質問したのは以下のとおりである。(いかにもCNNらしい質問である)(強調はDeepthroatによる)


ゴラーニ記者:
ディズニー側から見れば、マイケル・アイズナー氏が言うように、“選挙前に党派寄りの作品に巻き込まれたくない”というわけで、公平に見て、もし最終損益に影響する可能性があれば、配給したくないと表明する権利があるのでは

この質問に対するムーアの回答は以下のとおり。


ムーア:
メディア企業は国民の信頼の上に築かれている。その信頼は、全ての意見が耳を傾けられることを許されていることにある。私たちは自由で開かれた社会に生きているのだから、体制に反対する意見であっても口を封じられたり、沈黙させられたりされてはいけない。ディズニーはその信頼を傷つけているんです

まさしくこれこそ、ディズニー騒動で議論されるべきポイントである。つまり、メディア企業は企業収益と公益が葛藤した場合に、どちらを優先すべきか?

いうまでもなく、メディア業界であろうとなかろうと、公益性を軽視した企業活動は認められるべきではない。企業収益のために人命を軽視した自動車企業の腐敗を今まさに目の当たりにしている日本の人々には、すぐにご理解いただけると思う。

念のために言っておくと、私自身(Deepthroat)はマイケル・ムーアが今回の騒動を宣伝に利用するためにマスコミにネタをリークしたという見方を、完全に否定するつもりはない。ただムーア氏が、手の込んだ演出を意図して事実関係を捻じ曲げているわけではないことを強調したいのである。また、スキャンダルや騒動をプロモーションに利用することが常に不道徳な行為であるとも思えない。例えば、ポール・オニールやリチャード・クラークや、ボブ・ウッドワードの著作が世に知られなければ、政府によって隠蔽された重大な事実を、アメリカ国民は永遠に知らされなかったかもしれない。全ては問題の焦点と公益性次第であると思う。

実際、ディズニーとマイケル・ムーアのモメゴトが公開されることによって、(ムーアが自身の作品と同じくらい国民に知らせたかった)以下の事実がスポットを浴びる機会が生まれたのである。(情報源はアメリカンプログレスの記事Fairness & Accuracy In Reportingより)

  • フロリダ州知事ジェブ・ブッシュは自身が理事を務める州公務員年金基金を通して約730万ドル分のディズニー株を保有している。前回のディズニー株主総会において、フロリダ州年金基金の役員とジェブ・ブッシュは株主としてアイズナーCEOの続投に反対しており、アイズナーは自身の支配が揺らぐことを懸念している。
  • アイズナーはブッシュ家の選挙キャンペーンに個人献金している有力支持者のひとりである。
  • 「あらゆる政治的意向を持つファミリーの要求を満たす」というディズニーの主張に反して、同社のメディアネットワークは極端に保守系に傾倒している。ディズニー系トークラジオ局はラッシュ・リンボー、ショーン・ハニティ、ビル・オライリー、マット・ドラッジなど極右タレントがレギュラーを務めている。またディズニー所有のファミリーチャンネルは、パット・ロバートソンの聖書原理主義番組700クラブ」を放送している。

ところで、今回のミスリードの元となった「Moore admits Disney 'ban' was a stunt」という間違った見出しを、現在でも堂々と掲載している大手メディアのひとつにニュージーランド・ヘラルド紙がある。その親会社はAPN News & Media 社。オーストラリア、ニュージランドをテリトリーとする大手メディア企業で、同社のオーストラリアでのラジオ部門であるthe Australian Radio Network は、アメリカで地方ラジオ局を買収しまくり、(ブッシュ批判の件で)ディクシー・チックスをボイコットするキャンペーンを仕掛けた超保守系企業のクリアチャンネル関連企業である。

ニュージーランド・ヘラルド紙が仕事仲間のために読者をミスリードしているなどと言うつもりはないが、奇妙な偶然はあるものだ。

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コメント

マイケル・ムーア日本版公式サイトだそうです。
http://www.michaelmoorejapan.com/
華氏9.11のことがちと書いてあります。

インディペンデント紙の記事のタイトルは掲載当初は「Moore admits Disney 'ban' was a stunt」で、あとから「Moore accused of publicity stunt over Disney 'ban'」に変わったのです

 無論、1年前からわかっていたことであるにせよ、それがなんで大きな問題なんですか?事実確認をよくしないで伝えた報道に問題があることは確かですが、そういったことを超えて、ムーア監督の「トリックスター」的な活躍ぶりが実に微笑ましい。日本の「右翼」「左翼」ともに爪の垢を煎じて飲め、といいたいぐらいいです。細部にこだわる余り、ビッグピクチャーを見誤ってはならないのです。今後はそういう意味での啓蒙的な批評をお願いしたい。

以下の記事は、http://www.yorozubp.com/0405/040508.htm
の引用です。

(引用開始)
現代に復活した保守派のトリックスターであるネオコンに対して、くそまじめな論調で対抗しても勝ち目がない。スルリと身をかわし、笑い飛ばされてしまうだけだ。こうしたワンパターンの論戦に見飽きたところで、気になる存在が現れてきた。丸い体に丸い顔、丸メガネのひげ面、そして目をキョロキョロさせながらジョークを連発させる。日本でもその著書(「アホでマヌケなアメリカ白人」)がベストセラーとなった映画監督マイケル・ムーアである。

 コロンバイン高校で起きた銃乱射事件から米国での銃犯罪に取り組んだ映画「ボウリング・フォー・コロンバイン」で2003年の米アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞し、その授賞式では「ブッシュ大統領よ、恥を知れ!」を連呼した。この映像からはまだまだトリックスターには程遠いと感じるが、映画を観る限りにおいてはその素質は十分にある。


ウォルト・ディズニーが圧力をかけたとの記事は瞬く間に世界中を飛び交うことになるが、実際にはすでに昨年5月にウォルト・ディズニーから配給しないとの決定がムーア側に伝えられていた。『華氏911』は5月12日から始まるカンヌ国際映画祭のコンペティション作品にノミネートされているが、この時期に敢えてこの問題を取り上げたのは、カンヌに向けた人目を引くためのPR・スタントであった。ここにムーアのトリックスターとしての真価が見てとれる。

問題となるのは、ムーアがトリックスター的な性格を忘れ、くそまじめな映画になっている場合、特に米国南部・中西部のバイブル・ベルトではブーイングで迎えられ、どこかの国のようにバッシングが吹き荒れ、自作自演や陰謀とのレッテルを貼られ、完全に無視されることになるだろう。

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