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2004/05/19

「ブッシュのアメリカを継ぐ若者達」byナオミ・クライン

英ガーディアンの2004/05/18付け記事より。

No Logo: No Space No Choice No Jobs 」(翻訳版:「ブランドなんかいらない」)の著者で、ジャーナリストのナオミ・クラインが寄稿したコメントを以下に全訳掲載。(文中リンク、注はDeepthroatによる)



「ブッシュのアメリカを継ぐ若者達」
(Children of Bush's America)


by ナオミ・クライン

1968年、アメリカの伝説的な組合主宰者、セサール・チャベス氏が25日間のハンガーストライキを敢行した。食事を絶っている間、チャベスは農場労働者たちが直面した劣悪な生活環境を非難した。彼の歴史的な組合活動のスローガンは「Si se puede!(我々にはできる:Yes, we can!)」だった。

先週、ジョージ・ブッシュは4日間のバス遊説に出かけた。あちこちの街でパンケーキの朝食をとりながら、ブッシュは自身の減税政策を褒め称え、世界経済時代においても労働者に対する保護政策が必要と主張する人々を非難していた。彼がその自由放任主義経済を強調する際のスローガンは?「アメリカならやれる!(Yes, America can)」である。

おそらく、そうした呼びかけは意図的なものだろう。ブッシュはヒスパニック系アメリカ人の票集めのために、オハイオ州での遊説では「Vamos a ganar! We're going to win!(我々が勝つ!)」と叫び続けている。

しかし、「Yes, America can」バスツアーの本当の目的は、もちろん、有権者達の関心を、イラク刑務所スキャンダルから国内雇用再生の話題へと逸らすためのものである。米労働省の報告によれば、今年4月に288,000人の雇用が創出されたとのことだ。ブッシュの選挙キャンペーンはこの数字を取り上げて、ジョン・ケリーを、陰気なニューイングランドの悲観主義者で、いつも悪いニュースについて単調な語り口で話す人物という役回りに仕立て上げている。一方のブッシュは、元気なテキサスの楽観主義者で、いつも気楽なスマイルとサムアップ(親指を立てるサイン)が売りというわけだ。アイオワ州ドゥビュークで、ブッシュは観衆に向かってこう話している。「大統領というものは、国民が楽観的で、雇用創出に自信をもっていることを明確にするべきなのだ」

しかしながら、創出された雇用の内実をいくつかみれば、ポジティブな大統領のパワーの影響を伺うことができる。今年4月に派生した雇用のうち82%以上は、レストランや小売り店といった、サービス業分野の雇用なのである。そして最も新規雇用を増加させた雇用主は、派遣会社であるという。そして過去1年間で、製造業の分野では272,000人が職を失っている。大統領が2月に報告した経済レポートで、ファーストフード店舗を生産工場として分類し直すというアイデアが登場したことも当然であろう。レポートはこう問いかけている。「ファーストフード店でハンバーガーが売れたとき、それはサービスが提供されたというべきか、それとも製品が製造されたと見なすべきか?」

しかし、米国内の雇用上昇率の全てが、ハンバーガーをひっくり返すことや派遣社員の増加から成立しているわけではない。200万人以上のアメリカ人が収監されている状況にあっては、刑務所護衛官の数も急増している。2000年には270,317人だった刑務所護衛官は、2002年には476,000人となった。

悲惨な経済状況に直面しながら、ブッシュが親指を立てる姿を見るにつけ、私の頭は、イラクで撮影され、広く出回っている写真のほうに思いをめぐらせてしまう。チャールズ・グレイナーとリンディ・イングランドというその道の専門家が、幸福なカップルとして、拷問されたイラク人囚人が積まれた山を前に、ニコヤカな表情で両手の親指を立てている写真。万事が順調とでも言いたげな彼等の視線は、足元に注がれることはない。

米国の悲惨な雇用情勢と、アブグレイブ刑務所から登場したイメージはどこかで繋がっている。刑務所スキャンダルに関わった若い兵士達は、低賃金労働者(McWorkers)であり、刑務所護衛官であり、「景気回復」とブッシュが言うところの、レイオフされた工場労働者たちなのである。虐待の責任を負う兵士達のレジュメは、まさしく4月の米国労働省の報告の内実そのものだ。

サブリナ・ハーマン技術兵は、バージニア州ロートン出身で、地元のパパ・ジョンピザ店の副店長である。グレイナー技術兵はペンシルバニア州から来た刑務所護衛官だ。もうひとりの刑務所護衛官、アイヴァン・フレデリック軍曹はバージニア州の田舎出身である。

「アメリカの収容所経済」と囚人側弁護士のヴァン・ジョーンズ氏が表現したとおり、イラク刑務所に勤務する前のフレデリックには、メリーランド州マウンテンレイクでボシュロム社の工場にきちんとした仕事があったのである。しかし、ニューヨークタイムズ紙によれば、その工場は閉鎖され、メキシコに移転した---経済政策研究所の見積りによると、1994年に北米自由貿易協定(NAFTA)が効果を発揮してから、米国内で900,000人分の雇用(大部分は製造業)が失われたというが、これはその一つの例である。

自由貿易は米国雇用市場を砂時計に変えた。多くの仕事は底に向かい、上にもかなりの仕事はあるが、中間層にはほとんど何もない。同時に、底から頂点を目指すのはとても困難になっている。大学の授業料は1990年以来50%も上昇しているからだ。

そこで米軍の登場である。陸軍はアメリカで拡大しつつある階級格差に架ける橋の役割を担っている。軍隊勤務と引き換えに大学の授業料が負担されるのだ。自由貿易徴兵システム(the Nafta draft)とでも呼ぶべきかもしれない。

アブグレイブ刑務所スキャンダルで非難の先頭に立たされているリンディ・イングランドもそのシステムを活用した1人である。彼女は大学に行くために、憲兵隊に入隊した。彼女の同僚のサブリナ・ハーマンも、同じ理由で入隊している。

もちろん、刑務所での虐待に加担した兵士が貧しいからといって、彼等の罪の軽重には関係ない。しかし彼等について調べれば調べるほど、米国での良い仕事の減少と社会的不公平さが、まさしく彼等をイラクの最前線に追いやったという事実が、より一層明確になるのである。イラク問題から国民の目を逸らすために経済問題を持ち出し、兵士達の行為を反アメリカ的な社会逸脱者として孤立させることに執心するブッシュの意図にも関わらず、低賃金の仕事(McJobs)、虐待刑務所、不充分な教育、閉鎖された工場等に追いやられている若者たちは実在するのである。

そして、他の意味でも、彼等はブッシュが生み出した若者たちなのだ:足元に災難が迫っているのもお構いなしに、あちこちで親指を立てて見せびらかしている。これこそジョージ・ブッシュの真髄なのである。米国の有権者たちがポジティブな大統領を求めていることを確信して、ブッシュの選挙チームは楽天主義を武器として使うことを学んでいる。どんなに破滅的な危機が迫っていても、どんなに多くの命が失われるとしても、ブッシュとそのチームは世界に向けて親指を立て続けるつもりなのである。

ドナルド・ラムズフェルド?最高“楽天”司令官の言葉によれば、「素晴らしい仕事をしている」らしい。イラク作戦?大失敗だった「任務完了」演説から1年経って「もちろん、進展している」とブッシュはレポーターに話している。大勢を貧困に追いやった米国雇用市場は?「アメリカならやれる!」というわけだ。

若い兵士達に囚人を拷問するよう指導したのは誰なのか、私たちにはまだ知らされていない。しかし途方もない苦痛に直面した際に能天気な状態を保つ方法を教えた人物については、私たちは実によく知っている。その教えは、上のほうから直接伝えられていたのである。




(注)McJob, McWork, McWorkers
元々はマクドナルドの仕事という意味。いつの間にか低賃金で退屈な労働の代名詞となり、今では英和辞書にも掲載されているが、米マクドナルド社は、Mcjob の定義は侮蔑的であるとして、辞書で有名な Merriam-Webster 社を非難している。McWorkersとは低賃金労働者を表している。

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