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2004/11/15

アメリカと生命倫理:避妊薬の販売を拒否する薬剤師達

「考えて作り出そうとしても、とうていできないほどの種々さまざまの矛盾が、どの人の心の中にも、生まれながらに具わっている。」

---ラ・ロシュフコー箴言集

USA today紙2004/11/08付け記事より。記事全文を以下に翻訳して掲載。



経口避妊薬(ピル)の販売を拒否する薬剤師達(Druggists refuse to give out pill)


By USA TODAY記者シャリス・ジョーンズ(Charisse Jones, USA TODAY)

ここ何年もの間、テキサス州フォートワース郊外に居を構えるジュリー・レイシーは、近所にあるコンビニ薬局でピル[経口避妊薬]を購入してきた。ところが今年3月のある日、その店の薬剤師が避妊に反対という理由で、レイシーは処方薬の販売を拒否されてしまった。

「ショックでした」33歳のレイシーは話した。結局、次の日まで彼女はピルを入手することができず、1回分の服用を逃してしまった。「薬剤師の仕事は客の行動を規制することじゃないわ。医師の指示通り処方薬を客に渡すべきでしょう」

しかしながら、相当数の薬剤師が、本人の倫理上の理由により、避妊に関わる薬剤の販売を拒否している。そして、ロード・アイランドからワシントンに至る州では、そうした薬剤師達の判断を保護する法律が提案されている。

ミシシッピ州では、圧倒的多数により可決された法により、今年7月から、薬剤師を含むあらゆる医療業従事者が、自らの良心に反する医療行為に加わることを拒否できることになった。サウス・ダコタ州とアーカンソー州では、薬剤師が医薬品の受け渡しを拒否する権利を認める法律がすでに存在している。他にもおよそ10州ほどが、同様の法案の成立を検討している。

5万人の会員を擁する全米薬剤師協会では、薬剤師が個人の倫理観により処方薬の販売を拒否できるという政策を承認しているが、その際に薬剤師は客に対して医薬品が入手できるよう手配する義務を負うとしている。しかし処方箋を他の薬剤師に引き継ぐことを拒否する薬剤師も相当数居るという。

ウィスコンシン州マディソン郡では、或る薬剤師が、女性客の提示した処方箋どおりに医薬品を販売することを拒否し、またその処方箋を客に返却することも拒否したという件で、州の薬局委員会から懲戒処分を受ける事態に直面している。その薬剤師は、自身の宗教上の倫理観から、薬の処方を拒否していた。

女性の性と生殖に関する権利を擁護する人々は、そのような薬剤師の行動や、法制化の機運が高まっていることを懸念している。

合衆国下院は、今年9月に、郡、州、連邦当局による、妊娠中絶に関わる医療従事者向けの連邦資金を防止する条項を可決した。

「妊娠中絶に関する議論はより大きなイデオロギーの氷山の一角であることは理解しています。そして彼等が避妊すら問題にしていることも理解しています」米国家族計画連盟の会長、グロリア・フェルト氏は語っている。「法律の拡大や“(避妊を)支持しないので薬を販売するつもりはありません”という個人が急増している事実には本当に驚いています。」

無防備な性交後、120時間以内に飲むことで受精を防止できる緊急避妊の手段である“モーニングアフターピル(経口避妊薬)”を巡り、薬剤師たちは議論の表舞台に立たされている。

宗教上の理由で避妊に反対する薬剤師がいる一方で、受精により生命が始まるという理由で、ホルモン系避妊薬や、特にモーニングアフターピルは、中絶と同様の影響があると見なす人々もいる。

「人命を損なう重大なメカニズムを持つ医薬品の処方は拒否しています」1,500人の会員を擁する“生命を重んじる薬剤師国際連盟(Pharmacists for Life International)”会長のカレン・ブロイヤー氏は語る。ブロイヤー氏は、1996年に、勤務先であるオハイオ州シンシナティの郊外デリー地区のKマートで、避妊薬の処方を拒否した件で解雇された経験の持ち主である。

テキサス州ノースリッチランドヒルズに住むレイシーは、3月に避妊薬の販売を拒否されてから、テキサス州薬剤師委員会に訴えた。2月には、同じくテキサス州デントンのエッカード・ドラッグストアで、レイプ被害にあったという女性の求めを拒否して避妊薬の販売をしなかった薬剤師が現れた。

マディソン郡の件では、薬剤師のニール・ノーセン(30歳)が、避妊薬の販売を拒否した後で、他の薬剤師に引き継ぐことなく処方箋を客に返却することもしなかった。女性客は、同じ薬品店で2日後に処方箋どおり薬を入手することができた。しかし、入手時期が遅れたため、薬を服用できなかった。

2002年夏、ウィスコンシン州メノモニー郡でそうした出来事があってから、女性客は苦情を申し出た。ウィスコンシン州許可取締局の広報担当者クリストファー・クライン氏の話では、問題点はノーセンが引継ぎをせず処方箋を返さない点だった。10月には公聴会が開催された。もっとも厳しい処罰規定では、ノーセンの薬剤師免許剥奪の可能性もあった。しかしクライン氏の話では、それはありえないという。

全米薬剤師協会の広報と相談員を務めるスーザン・ウィンクラー氏の話では、薬剤師が倫理上の理由で薬品販売を拒否する事例は滅多にないという。彼女によれば、他の薬剤師の紹介を拒否する事例はもっと珍しいとのこと。

「現実には、それらの事例は強調されすぎているのです」ウィンクラー氏は続ける。「協会は販売から一歩距離を置くことは支持しますが、(薬の入手を)妨害することを支持しているのではありません」

1970年代には、中絶と避妊手術において、いくつかの州で特定の医療業務従事者がそれらの業務を拒否できるよう、拒否条項を認めていた。1990年代にそうした問題は再度表面化したと、妊娠問題を研究するアラン・ガットマッハー研究所のアダム・ソンフィールド氏は語っている。

ソンフィールド氏の話では、医療業務従事者や保険企業、その雇用主達が、医療技術の発達により、モーニングアフターピルや、胎児の幹細胞研究、安楽死などの分野において、それに関わる業務を拒否する権利を申し出る件が急増しているという。

ソンフィールド氏は言う。「人々が問題視する医療技術が増加した結果、そうした議論の一部になることを恐れ距離を置こうとする人々も多くなっているのです」

ウィスコンシン州では、中絶や自殺幇助の恐れのある薬品の販売を、薬剤師が拒否する権利を認める法案の再興を求める署名活動が進行中である。

「薬剤師は自らの良心と生活手段の間で選択を迫られるような事態を強要されるべきでないと認識しています」ウィスコンシン州の妊娠中絶反対論者、マット・サンディーは言う。「薬剤師達は、妊娠中絶賛成派に無理やり加えられるべきではないのです」

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