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2005/01/15

ワシントンポスト紙:危機を捏造する大統領

ワシントン・ポスト紙2005/01/12付けコラム記事より。以下に全文を翻訳掲載。


危機を捏造する大統領(President of Fabricated Crises)


by ハロルド・メイヤーソン:ワシントン・ポスト紙2005/01/12付

大統領の中には、危機を乗り切ることで歴史に名を残す者も居る。リンカーンはサムター要塞を、ルーズベルトは大恐慌と真珠湾攻撃を、ケネディはキューバ危機を乗り越えた。ジョージ・W・ブッシュは、もちろん、911同時多発テロとそれに続く危機---タリバン政権転覆を通して、歴史にページを割いている。

しかし、歴史家がブッシュ大統領時代を振り返る時、他の大統領に比較してより注目することになるのは、危機を乗り越えるということではなく、危機を捏造した部分であろう。危機の捏造はブッシュ政権のお家芸なのだ。ホワイトハウスにやってくる前に自身で設定した目標---サダム・フセイン体制の転覆や社会保障の民営化---を達成するために、ブッシュ大統領は危機をでっちあげたのである。

さて、イラクがアメリカ国内の家庭にとって今そこにある危機となったのは、大量破壊兵器で満たされ、核攻撃も辞さないとされたからである。そして今週、大統領はさっそく二番目の大恐怖キャンペーンに乗り出している。今回のキャンペーンでは、アメリカ国民に対して、社会保証制度が破綻すると脅し、唯一の救済策は給付額を削減してシステムを個人会計に転換する(民営化する)ことであると説得している。

実際には、社会保障制度は過去70年間でより強固な地盤を固めている。何か特殊な事態が発生しないかぎり、管理者の説明では、2042年まで満額で給付をおこなうことができる。今後の75年間を見ても、見込まれる不足金額は、管理者の説明では国民所得のわずか0.7%、連邦議会予算事務局の試算では0.4%である。それでも大金となるだろうが、同時進行するブッシュ政権のメディケア(高齢者用医療制度)処方薬費用給付制度の費用負担はその2倍であり、あるいはブッシュ大統領の目論む減税延長による費用負担が社会保障制度費用負担の4倍であることを考えれば、たいした額ではないのである。

端的に言って、社会保障制度は財政上の危機に瀕してはいない。今後10数年のうちに、歳入を増加させ給付を減少させる若干の明確な調整が必要とされているのである。

しかしながら政治的には、社会保障制度は前代未聞の危機に直面している。大統領とおそらくは下院の過半数を占める議員達---イデオロギー上の動機で制度に反対し、ニューディール政策を撤回可能な米国歴史上の逸脱とみなし、1935年の議会において制度化に反対票を投じたであろう人々によって、社会保障制度は史上初の脅威にさらされているのだ。しかし、イデオロギー上の理由をもって社会保障制度の撤回を求めることが成功しそうにないことは、カール・ローブに相談せずともブッシュは知っているのである。

そこで、またしても危機の捏造開始である。ブッシュの統治下にあっては、危機の捏造は毎度のことなのだ。合衆国は医療ミス費用の危機に直面しているというが、連邦議会予算事務局の説明によれば、医療ミスによる費用負担は医療保険全体のわずか2%を占めるに過ぎない。(実際には、訴訟弁護士の経済的、及び政治的影響力を排除したいという大統領の目論見なのである)大統領は合衆国が判事不足の危機に直面しているというが、実際には上院の民主党議員が議事進行妨害によって阻止した判事の数は、ブッシュ政権第一期に指名された229人のうち、わずか10人に過ぎない。

危機の捏造が政府の主要な課題とされる時---政権閣僚の何人がサダム・フセインの脅威の恐ろしさ、あるいは今度の、社会保障制度の破綻を口にしているか考えてみて欲しい---ブッシュ政権ほど古風なプロパガンダ手法に依存している政権はないだろう。全くもって、フォックスニュースネットワークや右派トークラジオ抜きのブッシュ政権など、想像できないのである。

事実とフィクションをごちゃまぜにすることはブッシュ政権の主要な業務なので、保健社会福祉省から全米麻薬撲滅対策室に至る政府機関が、ニセのニュース番組とニセ記者をでっち上げて広報フィルムを制作し、地方のテレビ放送網に提供していたとしても驚くにはあたらない。訳注1

教育省が、保守派評論家のアームストロング・ウイリアムズに24万1000ドル支払って、ブッシュ政権の「おちこぼれゼロ」政策を賞賛させた件も驚くにはあたらない。ブッシュ政権においては、あらゆる手段を用いてブッシュ支持を推進するのは、政府機関の役割なのである。アフリカ系アメリカ人のコミュニティにおいて、フォックスニュースの視聴者が占める割合はそれほど多くはないので、ウィリアアムズの登場となったわけである。彼は、クラレンス・トーマス最高裁判事の下で事務員を経験した間に、贈り物を断るのは失礼であると学んだらしい。訳注2

我が国は多くの大統領を抱えてきたが、最も悪名高いのは、メディアを敵と見方に分割したリチャード・ニクソンであった。しかしながら、偽情報の拡大にこれほどまでに執心し、プロパガンダが民主主義を腐敗させることに全く無関心である大統領は、ブッシュ以外には思いつかない。それこそ、歴史書の中でブッシュ大統領が占めるべき内容であろう。


(訳注1)2004年に、ブッシュ政権と保健社会福祉省が、民間PR企業であるHome Front Communications社を雇ってニセのニュースフィルムを捏造し、オクラハマ州、ルイジアナ州など非都会地区の地域テレビ放送網のニュース番組中に放映させた事件を指す。(参照source:英ガーディアン紙の報道

Karen Ryan

カレン・ライアン


放送されたフィルムは2種類あり、そのひとつはPR企業役員(カレン・ライアン)が報道記者を装って、ブッシュ大統領が新たに議会通過させた医療保障改革法案を絶賛するもの、もうひとつはヒスパニック系市民向けのもので、アルベルト・ガルシアと名乗る報道記者(正体は俳優)がブッシュの新法案を絶賛するインタビューシーンをニュースとして収めたものである。

問題となったブッシュの医療保障改革案は、高齢者の処方箋薬価格を下げるという宣伝に反し、実際には受益者が縮小し、国民負担が増加する最悪の法案であった。しかもブッシュは法案提出の際、費用計算を偽って過小報告していたのである。(参照source:"Bush's Medicare Plan Seeks to Move Seniors into Private Plans, Doesn't Decrease Prescription Drug Costs", "Bush Supports Medicare Bill Despite Its Failure to Rein in Drug Costs")


(訳注2)USAtoday紙2004/01/07付けのスクープによって明らかになった事件。保守派評論家アームストロング・ウィリアムズは、大手PR企業であるケッチャム社の仲介により、教育省から報酬を受け取り、ブッシュ大統領の政策「おちこぼれゼロ法(No Child Left Behind)」を自身のテレビ番組その他メディアで絶賛するよう依頼されていた。アフリカ系アメリカ人であるウィリアムズの宣伝により、黒人市民のブッシュ政権支持拡大を狙ったものである。

Armstrong Williams

米保守派の唱える「ゲイは皆罪人である」に同意のフリをした保守派評論家アームストロング・ウィリアムズも、男性からセクハラで訴えられた経験を持つゲイである


間抜けなことに、政府によって買収される以前のウィリアムズは、ブッシュの「おちこぼれゼロ法案」を自身のコラムで批判しており、より一層立場を悪くしている。刑事罰の可能性も出てきてヤケクソになったウィリアムズは「買収されてるのは俺1人だけじゃない」と右派評論家業界の内幕暴露を匂わせている。

教育改革を装うブッシュの「おちこぼれゼロ法」は、実際には政府の教育予算大幅削減を目指したもので、公立学校を競争させて成績向上した学校だけに補助金を与えるというもの。さらにこの法案の下では、生徒の名簿を軍部に提出するよう学校側に義務付けており貧困地区の学校に通う生徒宛てに、米軍からダイレクトメールを送付し、あるいは直接訪問して入隊を促進させることが可能となっている。これはブッシュ政権の推進するバックドア・ドラフト(Backdoor Draft:裏口徴兵)政策の一例として批判されている。

アームストロング・ウィリアムズが師事した最高裁判事クラレンス・トーマスは、ブッシュ父時代に任命された人物で、最高裁判事としてもっとも大量の賄賂を受け取っていることでずっと批判されている。(米国では、最高裁判事が裁判と直接関係のない相手から贈り物を受け取ることに対しては法的制限がない)

ちなみに、クラレンス・トーマス最高裁判事は、悪名高きボヘミアン・クラブ---陰謀論筋から世界支配者会議と揶揄されている金持ち秘密クラブ---の招待客の1人。


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