「狂牛病とアメリカ人」byジョン・ストーバー
In These Times誌2005/01/18付けコラムより。全文を翻訳して以下に掲載。(文中リンクは訳者による)このコラムを書いたジョン・ストーバー氏は全米ベストセラー本「Mad Cow U.S.A.: Could the Nightmare Happen Here?(邦訳は道出版:隠されている狂牛病)」の共著者である。
米国牛肉輸入再開問題について、これまでのところ米国側は、日本への輸出対象を生後約14カ月齢以下とみられる牛に絞り込む「妥協案」を提示してきたが、以下のコラムに書かれているとおり、米国産の子牛が安全などという主張は全く信用できない。
さらに悪いことに、ベネマンから業務を引き継いだ米農務省の新長官、マイク・ジョハンズ氏(元ネブラスカ州知事)は「米国のグッド・サイエンスを下に判断すべき」とひたすら米国牛の安全性を主張しており、日本に対しては前述の妥協案を撤回して、全ての輸入規制を撤廃させると豪語している。(もっとも、採用時に大風呂敷を広げるのはアメリカ人ビジネスパーソンの典型的行動パターンである)
反戦家の活動監視を主要な業務としている奇妙な国内テロ対策を見ればわかるように、米国の役人に安全確保について理解させることはとてつもなく難しい。一方で、日本の政府関係者にイエスと言わせるほど簡単なことはないと、米国政府当局者は堅く信じているのである。
日本側の実務者はどう対応すべきか?「前向きに検討します」と頭を下げて、事態を一切進展させないという日本人特有の高度な交渉術を崩さないのもひとつのやり方かもしれない。
狂牛病とアメリカ人(Mad Cows and Americans)
北米牛の手薄な検査基準は感染の拡大を隠蔽している
by John Stauber:In These Times誌2005/01/18付けコラム
1月2日、カナダ政府当局者は、アルバータ州の乳牛が狂牛病検査に陽性反応を示したと公表した。北米大陸の牛で神経系疾患と確認された事例としては3例目である。
大部分のカナダ国民とアメリカ国民は、BSE(牛海綿状脳症)---の感染を防ぐために自国の政府が必要な措置をとっていると信じている。過去10年間、両国の政府当局関係者と食肉企業、畜産業界は、牛のタンパク質を飼料として牛に与えることを禁止して脳疾患の感染を防ぐとされる“1997飼料禁止措置”のような広範囲な防御措置により、カナダと米国では狂牛病の発生はないと主張してきた。
しかしながら、1997年度に米国とカナダで導入された規制は、あまりにも非力で、いささか遅すぎたのである。例えば、牛の血液をタンパク源とした調整乳を子牛に与えることは、両国において今でも合法である。
なぜ今日までにたった3例しか狂牛病感染が確認されていないのか?カナダと米国の両国では、政府当局による検査件数を増加させているが、その検査基準はEUや日本で行われているものに比較して、悲惨なほど不適切なのだ。
2004年度に食肉加工され、一般食品や飼料向けに供給された3,600万頭の牛の内、検査されたのは17万6,468頭に過ぎない。少なくとも、都会的な“クイック検査”により狂牛病感染の可能性があると診断された3頭に関しても、米国農務省は、詳細検査の結果感染を否定している。しかし、政府による検査は非公開で行われているため、疑わしいものである。独立した科学者や研究所による検査は全て拒否されている。農務省が狂牛病感染の可能性について警告するたびに食肉市場は大混乱に陥るので、業界団体は政府に感染疑惑について一切発表しないよう圧力をかけている。
ドイツで狂牛病感染牛の存在が確認されたきっかけは、企業独自の検査によるものだった。したがって、カンサスを拠点とするクリークストーン・ファームズ・プレミアム・ビーフ社が、日本への輸出用牛に対する独自検査の協定を日本側と締結した際、米農務省が1913年の法を持ち出して、企業による独自検査を違法として警告した件も何ら驚くに値しない。
危機に関する広報活動の基本ルールは、“怒りを管理する”ことである。2003年12月23日、米国内での狂牛病感染確認の発表の際にメディアは色めき立ったが、周到に用意された農務省とPR企業との連携活動により、騒ぎは数週間で沈静化された。それ以来、メディアは主に農務省長官と、業界に支援されたさまざまな第三者団体---例えば、ハーバード危機分析センターのような素敵な名の団体による事態の沈静化を企図した主張を反復するのみである。その結果、ほとんどのアメリカ国民は、狂牛病感染防止のために必要な防護手段が行われていると思い込み、ヨーロッパで発生した、米国政府に対してヨーロッパの基準を遵守させ、家畜を家畜に飼料として与えることを全面禁止し、検査の拡大を求めるような大々的な抗議活動が起こることもない。
狂牛病とその人間版といわれる謎めいた致死病、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の問題解決のために必要な手順は、単純且つわかりやすいものである。この病気は スタンリー・プルシナー博士の命名した異名である“プリオン”というタンパク質により感染拡大する。感染した家畜が人間や他の家畜に与えられると、狂牛病感染が起こる可能性がある。家畜を飼料として家畜に与えることを禁止すれば解決するが、そうなると畜産業界は、廃棄物---食肉処理後の臓物を、動物性タンパク質と脂肪補助食品という価値資源に転換する手段を奪われることになる。
合衆国が専門家の意見を聞き入れ、1996年に人間の死亡が確認された際に英国が行ったような家畜飼料化規制を導入したとすれば、米国内の狂牛病危機は回避されたことだろう。その代わりに、現在の北米には狂牛病が実在し、合衆国とカナダの子牛は牛の血液入りミルクを飲み、米疾病対策予防センター(CJD)は、突発性のクロイツフェルト・ヤコブ病によるアメリカ人の若者の謎めいた死亡原因が、狂牛病に感染した米国製の牛肉を食べたことによるものなのか、密かに調査しているのである。
米疾病対策予防センターによれば、突発性のクロイツフェルト・ヤコブ病は、100万人に1人の割合で発生する珍しい致死性感染病であるという。予防センターの報告で言及される20代、30代、40代の死亡患者は、過去5年間にカリフォルニア州、ユタ州、オクラハマ州、ミネソタ州、ウィスコンシン州、ミシガン州、ニュージャージー州、テキサス州その他の州で表面化している。アメリカ国内の鹿にみられる狂牛病タイプの感染病は慢性消耗病と名づけられ、また米国内の羊はスクレーピー病(狂牛病の羊版)に感染することが知られており、これら感染病が人間にも発生する恐れが拡大しつつある。しかしながら、痴呆症による死者は解剖検査されることもなく、クロイツフェルト・ヤコブ病による死亡例の報告とその調査が全国的に義務付けられているわけでもない。
1985年以前には、狂牛病は確認されていなかった。1996年までは、その感染による人間の死亡が確認されていなかった。2003年まで、血液感染により狂牛病が拡大するという報告は記録されていなかったが、同年には北米で最初の感染例が2例確認されることになった。
こうした感染例における最大の謎のひとつは、変種の実在と、研究所での試験で起こるような、特定の種が新たな宿主に感染した際に変種が出現する過程、そして、感染した飼料と感染家畜から、いわゆる種の壁を乗り越えた感染がいつ発生するのかというものである。
最悪の事態も予想されるので、政府の対応を求めていくべきである。例えば、動物同士の感染による狂牛病の拡大は確認されていない。しかし北米の鹿やヘラジカにおける同系の感染症である慢性消耗病は、同種での感染がみられる。一匹の鹿の唾液や糞から、他の鹿も感染するのである。悪夢のシナリオはこうだ:致命的な痴呆症が、キスで感染することになる。
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