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2005/04/26

「戦争の苦痛」byボブ・ハーバート

ボブ・ハーバートのNYタイムズ紙連載コラム2005/04/25付版を以下に全文翻訳して掲載。(文中リンクは訳者による)

戦争の苦痛(The Agony of War)

by ボブ・ハーバート:NYタイムズ紙2005/04/25付けコラム

「美しく、素晴らしく、常に新鮮で驚きに満ち、甘美で絶えることなき恍惚、その最たるものは善行である。」

---シモーヌ・ヴェーユ(哲学者)

「もはや疑いの余地はない。今、神の両手は塞がっているのだ。」

---テッド・オズワルド牧師、マーラ・ルジーカの葬儀にて

マーラ・ルジーカさん遺影

マーラ・ルジーカさん(2005年4月16日死亡、享年28歳)支援活動の傍ら、ルジーカさんはイラクで市民犠牲者数を記録していた

2003年に起きた恐ろしい出来事の最中、米軍の誤射によりロケット攻撃に遭った車の中に居たイラク人女性が、二人の子供---幼児と小児を窓から放り出した。女性と残りの家族は、黒煙と残骸の中で死んだ。放り出された二人の子供の内、ザーラという名の小児は酷い火傷を負い、2週間後に亡くなった。

もう1人の子供、ハラーという名の幼児の怪我は、それほど酷くはなかった。その子は最近、カリフォルニア出身の若き人道活動家マーラ・ルジーカの膝の上に座っているところを写真に収められた。ほんの1週間ほど前、そのマーラ・ルジーカは、バグダッドで乗っていた車両が自爆テロ攻撃に遭い、炎に包まれた残骸の中で死んだ。

米軍のイラク侵攻がもたらしたイラク市民の死傷者達の大半は、普通のアメリカ人の意識から注意深く排除されている。ブッシュ政権も、そうした話題を避けている。死んだ子供達の話題を肯定的に情報操作することはできないからだ。

報道業界に関しては、戦争で苦しむ市民について報じるよりは、楽な話題がたくさんある。戦争の話題を嫌うあまり、浮かれた報道陣はローマ法王の死と後継者の問題に没頭し、躁状態のメディア界はマーサ・スチュアートやマイケル・ジャクソンの動向に夢中で、戦争とは対極の話題に走っている。

何万ものイラク市民の救済なき苦悩に興味を示すメディアはほとんどない。そうした話題は厄介であり、世論を動揺させる類の戦争のイメージや情報から、アメリカ国民を守るという考えが支配的だ。戦争を仕掛ける国家としては、戦争に対して国民にあまり狼狽してほしくないのである。

そんなわけで、罪もなき市民の家にアメリカ製の爆弾が誤って落ち、家族を皆殺しにしていても、米国民が知る由もない。イライラした兵士が無差別に銃撃し、全く脅威でない男女や子供達を死傷させる事態が頻繁に起きていても、米国民の耳には届かない。平和と自由の名の下に、多くの子供達が、様々な場面で、銃撃され、焼かれ、吹き飛ばされて死に至っても、米国民はそうした話題をあまり聞くことがない。

去る者は日々に疎し。(Out of sight, out of mind.)

この戦争が市民に強いている犠牲に対するそうした恐るべき無関心こそ、28歳で死んだルジーカさんが、個人として可能な限り犠牲者を記録しなければと思い立った理由であった。彼女は、最も危険な地域の家々をまわりながら、死傷した市民の情報を記録していった。ルジーカさんは、戦争がもたらす酷い苦痛をアメリカ国民は知っておくべきで、その苦痛を和らげるために私達は何かをする義務があると堅く信じていた。

ルジーカさんの最終目標は、バーモント州上院議員パトリック・リーヒーも求めているように、合衆国政府内の、おそらくは国務省の一部局において、米軍の軍事行動による市民の犠牲者数を記録する体制を確立させることであった。そして、その情報を広く公開させる。犠牲者家族、遺族に対して賠償を行い、今後の軍事行動で市民の犠牲者を最小にとどめるための研究材料に活かすのだ。

戦争は常に悲劇であり、深い苦痛を伴う。愚か者達は、いい加減な理由付けで戦争を華美に粉飾したがるが、現実の戦場は常に理不尽な流血に満ちており、肉体を蝕み、肉体的・精神的に不具となった者は生涯の傷を負うのである。

故郷のカリフォルニア州レイクポートで行われたルジーカさんの葬儀には、600人以上が参列した。参列者の中には、ベトナム退役軍人アメリカ基金(Vietnam Veterans of America Foundation)の委員長ボビー・ミューラー氏の姿があった。元海兵隊員として、ミューラー氏は戦争の苦痛を知っている。ベトナムで背中を撃たれ、彼の脊髄は切断された。

参列者を前に、ミューラー氏は語った。「個人こそがこの世界をおおいに変えられるということを、マーラは示してくれました。彼女の人生は紛争における無実の犠牲者達に捧げられましたが、まさしく彼女もその1人となったのです」
(以上)

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