「シンディ・シーハンだけの話じゃあない。
この数週間の間に、アメリカ国内で、何かが起きたのだ。
突然、イラクで戦死した米兵達のことを、人々が認識し、話題にさえするようになっている。」
---デイブ・リンドフ:カウンターパンチ2005年8月19日付けコラム
「反戦」は脅威?

テキサス州クロフォード:シンディ・シーハン支援のために集まった人々の長ーい車列。地平線の先まで続いている。もはやブッシュ牧場は行列のできる店状態。これは確かに国家にとって脅威だ
ブッシュ大統領の牧場へと続く路上でシンディ・シーハンが座り込みを開始してまもなく、シークレットサービスと地元警察は母親達を逮捕すると脅した。「あなたがたの行為は国家の安全を脅かしている」ということだった。確かに、道路上で集会行為をしたり、乗用車の駐車場所が私有地であるということで、母親達は確かに法に抵触していた。シーハンと同僚たちは、活動場所を少し移動して座り込みを続けることにした。
8月11日、シーハンはブログに記した。「ジョージ・ブッシュに説明責任を果たさせる時です。そのために私はここに居るんです。大手メディアは大統領に説明させないし、議会も駄目。でも、私は大統領が責任を果たすまでここを離れません」
まもなく、テキサス州クロフォードで撮影されたシーハン自身によるテレビCMが、ブッシュの地元放送網でオンエアされ始めた。ビデオの中で彼女はブッシュを直接批判している:「大統領、あなたは国民にウソをついた。そのウソのせいで息子は死んだのです」合衆国大統領を率直に「ウソつき」と呼ぶテレビ広告は、911テロ以降の米国では滅多にみられるものではない。
8月12日、ブッシュ大統領を乗せた黒いバンの車列が、座り込みを続ける母親達の目の前を通り過ぎた。ブッシュとローラ夫人を乗せた車は、駆け寄る母親達から逃れるように、共和党の次期選挙資金集めのため地元で開催されるバーベキューパーティ会場に向けて走り去った。ブッシュの車列が通り過ぎる時、アリゾナ州から取材に来ていたコラムニストのメアリ・デジュリスは、上空を飛ぶ警備用ヘリコプターから身を乗り出して攻撃銃を構える警備兵に気がついた。大統領車輌の前後を走るシークレットサービス用のバンにも、彼女は注意を払った。窓は少し開けられていたが、黒いウインドウからは、警護官の構える狙撃銃が、まっすぐ母親達に向けられていた。「誰も妙な動きをしなかったから助かったわ」メアリは戦慄した。
8月14日、『平和の母』達がテントを張る『キャンプ・ケイシー』のすぐ傍で、ピックアップトラックの中から、初老の男がショットガンを5発、空に向けて撃ち、集まった人々を怖がらせた。
ショットガンを構えるラリー・マットレージという名の男は、ブッシュ牧場の隣人の1人だった。「俺は人に向けて撃ってないぜ。脅迫してるわけでもない。だいいち、ここはテキサスだぞ」テキサス州では、自分の私有地で銃を発砲することは犯罪ではない。「ハトを撃つ練習だよ。もうすぐシーズンだからな」
ラリー氏によれば、自分の土地の前で大量の人が集まるのは目障りなので、母親達が移動するまでショットガンを撃つということだった。すでに100人以上のサポーターが全米から集まっており、取材陣も含めて路上駐車の列が交通の障害となっていた。ブッシュ支持団体も集まり始め、騒ぎに苛立つ地元住民は、地元裁判所に公用地での集会活動禁止の訴えを出した。或る地元住民の家の玄関には「最高司令官を支持します」と看板が掲げられていた。

ブッシュ牧場へと続く道に立てられた米軍戦死者の墓標の列。白い十字架を見つめるのは、湾岸戦争に従軍した海兵隊退役軍人マイク・マクニール氏
路肩の草地には、シンディと支援者達が、戦死した兵士の名を記した小さな白い十字架を、道路沿いに立てた。ブッシュ牧場に続く道の脇に、戦死者の長い墓地ができあがった。しかし日が暮れると、1台のピックアップトラックが、立てられた墓標を轢き潰して走り去った。白い十字架は車輪に踏み潰され、戦死した兵士の墓標500人分ほどが、辺りに散らばった。墓標を立てた母親達は怒り、嘆き、泣いた。(トラックを運転していた犯人は後日逮捕された)
17日には、シークレットサービスを自称する男が、座り込みを続ける人々に立ち退くよう脅迫した。男は後に逮捕された。

ブッシュ支持派の白人男性が持つ看板は『自由はタダじゃない・(犠牲になってくれて)ありがとうケイシー』という意味。(ケイシーはイラクで戦死したシンディ・シーハンの息子)手前に立つ黒人男性はニューメキシコ州から来た反戦活動家。二人の違いに注目
ブッシュ支持派の団体も続々と集まり始めている。国旗を振る150人以上のブッシュ支持団体が、シーハンらの正面で行進をした。「テキサスはブッシュのもの」と描かれたトラックを運転する者もいた。70台ほどのバイクの一団が、ブッシュ支持を叫びながらキャンプ・ケイシー前を通り過ぎた。
「我等が大統領に神の祝福を!」と標識を掲げて座り込みを始めたゲイリー・クエル氏は、兵士である息子の1人をイラクで亡くしたが、シンディ・シーハンの行動を「兵士を侮辱するもの」と批判している。17歳になったクエル氏のもう1人の息子は、入隊を望んでいるという。「我が国と世界、自由を求める国家のために家族全員を犠牲にせよと言われたら、私は喜んでそうする」クエル氏は語った。
騒動の最中、シンディ・シーハンと28年間連れ添った夫、パトリック・シーハンは離婚の訴えを起こした。シーハンの親戚の一部は、ブッシュ大統領支持の声明を出した。フォックスニュースでは、右翼タレント達が反戦母達を連日中傷している。だがシンディは言う。「問題は私にあるのではなく、子供達を殺し続け、国家を危機にさらしている悲惨な戦争にこそあるのです」彼女の熱意は変わらなかった。「何度中傷されても、何度ショットガンで撃たれても、何度墓標を踏み潰されても、息子を死なせた戦争への抗議を止めることはありません」。
灯りはゆっくりと闇を照らしはじめた
路肩に立てた墓標が踏み潰されていたのを発見した直後、シンディ・シーハンの支援者達は悲しみと前途に続く苦難を前に、途方に暮れていた。地元住民の訴えはもうすぐ認められ、反戦の母達は、現状のキャンプ地を立ち退かねばならなくなる・・・そんな時、
フレッド・マットレージと名乗る地元男性が、シンディらに反戦活動のためのキャンプ場所を提供すると
申し出た。フレッド氏によれば、彼の所有する土地は、ブッシュ牧場にもっと近いという。
マットレージ?・・・聞き覚えのある姓だ。なんと、
ショットガンでシーハン達を脅した男は、フレッド氏の遠い親戚だった。
「嫌がらせを受けずに主張する権利が認められるべきだと思ったんでね。俺もこの戦争には反対さ」フレッド氏は言う。「俺も退役軍人だ。あんた方のやってることに賛成だから、俺の土地を提供したくてね」シンディ・シーハンと支持者達は、フレッド氏の土地に移動することになり、『キャンプ・ケイシー』はブッシュの足元にまた一歩近づいた。シンディらの活動をネット上で見守るブロガー達は、最新投稿を、フレッド・マットレージへの感謝の言葉で溢れさせた。

カリフォルニア州エンシニータでの反戦の祈り風景。全米1,600ヶ所以上、全州においてこのような祈りの集いが実施された
8月17日夜から18日にかけて、全米約1,627ヶ所で、イラク戦争反対を唱える人々が集い、徹夜で『平和の祈り』を実施した。海外でもパリ、ニュージーランドで同様の催しが行われた。テキサスのキャンプ・ケイシーには、メキシコ、ドイツ、オーストラリア、イギリスから取材者が訪れた。
全米でどれだけの人が祈りに参加したのかはわからない。だが、彼等が手にした灯りは、ブッシュ政権によって引き裂かれたアメリカの夜を少しだけ癒したに違いない。
ジャーナリストのマイク・グッドウィンは、ニューヨークデイリーニュース8月16日付けコラムの末尾を以下の言葉で締めている:
いつの日か、別の合衆国大統領がシンディ・シーハンを迎えて言うだろう:「イラク戦争を止めさせた女性というのは、あなたでしたか!」