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2006/08/29

クルーグマン:「税金取立て請負人、傭兵、総督」

経済学者ポール・クルーグマンのニューヨークタイムズ紙2006年8月21日付掲載コラムを以下に全文翻訳。(文中リンク・脚注は訳者による)

税金取立て請負人、傭兵、総督(Tax Farmers, Mercenaries and Viceroys)

by ポール・クルーグマン:ニューヨークタイムズ紙2006年8月21日付コラム

昨日ニューヨークタイムズが報じたところでは、米国内歳入庁(IRS)が、税滞納者への徴収業務を民間の借金取立て企業に外注しようと計画しているという。

これは恐ろしいアイデアだ。税金の徴収業務を民営化することは、歳入庁職員を増やすよりもコスト高になり、しかも職権濫用の危険性も派生する。しかし最も驚きなのは、この計画の先にあるのは、近代的政府の本質を後退させてしまうことだ。私は常々、保守派は国民を1920年代の生活に引き戻したがっていると言っていたが、どうもブッシュ政権は16世紀に戻したいらしい。

そして、税徴収の民営化は、偉大なる後退のほんの一部に過ぎない。

過去の悪政時代には、政府は行き当たりばったりの業務をしていた。税金を徴収する官僚制度は存在せず、それ故国王は徴税業務を、強引さで知られる『税金取立て請負人』に外注した。正規軍がない時代、君主は傭兵を雇い入れたが、傭兵たちは仕事を放り出して村々で略奪をする傾向にあった。政府には規定が存在せず、国王は行政をお気に入りの側近達に委任したので、しばしば腐敗と機能不全の両方に陥ることになった。

近代的政府はこれらの問題を解決するために、税の徴収には専門的な歳入部局を設立し、軍の規律を強化するために専門の部隊を編成し、専門の行政部を設立した。しかし、ブッシュ大統領はこうした革新性を明らかに嫌っており、まるで自身が国王であるかのように統治したがっている。

そんなわけで税金取立て請負人は復活するが、傭兵たちはすでに活動している。イラクには約2万人ほどの『保安請負業者』がいて、政府高官の護衛からイラク軍の訓練まで、重要な業務に従事している。

旧来の傭兵と同じく、現代の傭兵達も規律の問題を抱えている。昨年、米軍兵士が言っていた:「彼等は発砲するが、後始末は他の誰かがやらねばならない。」

軍の指揮系統から外れた武装兵達は、大災難を少なくとも一件引き起こしている。橋から吊るされた4人のアメリカ人を皆さんも憶えていることだろう。彼等はブラックウォーターUSA社の保安担当者で、海兵隊が入念な制圧戦略を実行している最中に、海兵隊の検問を無視して、ファルージャに迷い込んだのだ。4人が殺害された件と、それに伴い全面攻撃を指示し、犠牲者が増えると中止命令を出したホワイトハウス側の条件反射的行動は、反乱を制圧する最終機会を台無しにしたかもしれない。訳注

それでも、経営者が共和党の大口献金者であるブラックウォーター社は繁盛し続けている。カトリーナ大災害では、国土安全保障省により重武装のブラックウォーター社従業員がルイジアナに派遣された。

そうした契約事業者の場合、説明責任は誰にあるのか?先週、カスター・バトルズ社に対する1,000万ドルの損害賠償訴訟の評決が判事によって却下された。カスター・バトルズ社はバグダッド空港の保安業務を請け負う民間業者である。今ではイラクの復興を妨げる身内主義、腐敗、完全な非専門性を象徴する企業となっているカスター・バトルズ社の露骨な詐欺行為について、判事は異議を唱えなかった。

しかし判事の説明によれば、2003年4月から2004年6月の間イラク政府を統治したCPA(連合国暫定当局)は「合衆国政府の正式機関ではない」ので、その業務請負業者であるカスター・バトルズ社への市民代表訴訟は法的根拠を欠いているという。CPAは議会によって創設されたのではなく、国務省の一部門でもなく、他の政府機関にも該当しなかったのである。

ではCPAとは何だったのか?近代以前の君主にとってはお馴染みのやり方である。事実上、暫定当局とは、君主だけに仕える総督により運営された個人的な領土だったのだ。通常政府が統治する範囲外の存在だったので、総督は業務遂行能力に欠けた政治的忠義者だけを自由に雇うことができ、付き合いのある請負業者だけに100ドル札の詰まった現金袋を気前良く配布していたのである

税金取立て請負人、傭兵、そして総督達。ブッシュ政権が現代の超大国をまるで16世紀の君主国のように運営したがる理由は何か?諸悪の根源が行政にあるという非難に政治生命を費やす人たちには、優れた統治という考えが理解できないのかもしれない。もしくは政治的皮肉なのか。なにしろ民営化によって、説明責任を回避する好機と、莫大な利益供給源の両方がもたらされたのだ。

しかしその犠牲は甚大である。政府を機能させる方法に関する数世紀分の教訓を、現政権は無視してきた。恐怖を売り物にする以外、全ての政策に失敗しているのも当然といえよう。
(以上)


訳注:死亡した傭兵はスコット・ヘルベンストン、ジャーコ・ゾフコ、マイク・ティーグ、ウェス・バタロナの4人。4人の遺族は従業員の安全確保を怠ったとしてブラックウォーターUSA社を相手に訴訟を起こし現在も係争中である。尚、CIAのビン・ラディン追跡・テロ対策部門責任者を務めたコーファー・ブラック氏は、2004年11月に退任後、ブラックウォーターUSA社に副会長として天下りしている。)


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