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2006/08/11

亀裂、対立、確執:ブッシュ政権の内部紛争

ワシントン周辺で「親密すぎる」と邪推されるブッシュ大統領とライス国務長官が、波乱の時期を迎えている。イスラエルのレバノン侵攻をめぐる対応を通して、ブッシュ政権内部の紛争を伝える報道が相次いでいるのだ。

まずは、オンラインニュースサイト・サロンドットコムに掲載されたスクープから以下に一部を引用(強調は訳者による、以下同様)

ネオコンの次の戦争


NSAの諜報をイスラエルに密かに提供し、コンディ・ライスを攻撃することで、ブッシュ政権内部の強硬派は中東紛争を止めるどころか、イランとシリアに拡大させようとしている。


by シドニー・ブルメンサール:サロンドットコム2006年8月3日付記事

米国家安全保障局は、イスラエル北部に大量のミサイルを発射するヒズボラへシリアとイランが新しい兵器を支給しているかどうか監視するために、イスラエル側に通信諜報を提供していると、同作戦を直接知る立場にあるNSA職員は言った。ブッシュ大統領はこの秘密作戦を承認しているという。

政権内部では、ディック・チェイニーの国防関連補佐をするネオコン達や、国家安全保障理事会上級理事を務めるネオコンの1人、エリオット・エイブラムスが、NSAのイスラエル支援作戦を指揮する主役達で、彼等はシリアとイランの武器供給活動により、イスラエルが両国を爆撃する口実となりうると考えている、と同作戦の内情を知る関係者達は言っている。(過去にも様々な政府諜報が、NSAが収集した諜報も含めて、様々な目的でイスラエルに提供されてきた。)ネオコン集団は、NSAの諜報能力を利用してイスラエルとヒズボラ、ハマスの闘争を(シリア、イランを加えた)4つ巴の戦争に拡大出来る可能性に熱狂しているといわれている。

国務長官コンドリーザ・ライスは当該事情について「簡単な説明を受け」、「関係者」に名を連ねるが、ネオコン集団の秘密のシナリオを進める上で主要な役割を果たしていない。彼女への「説明」とは、国務長官を威圧し隅に押しやるための政権内部の紛争という側面があるようだ。最近、イランの核兵器開発を抑止する外交努力に反対する著名なネオコン達から、ライス長官は攻撃されている。
(以下略)


このところ大忙しのNSAは、相変わらず職員のリーク防止まで手がまわらない様子だ。(NSA関連を得意とするジャーナリスト、ジェイムズ・バムフォードも最近は続々と雑誌にスクープ記事を書いている。)

それはさておき、911テロ調査委員会でさんざん叩かれた後に異例の出世を遂げたコンドリーザ・ライスは、華々しいキャリアの正念場を迎えているらしい。ニューヨークタイムズ紙の最新記事が事情をうまく伝えているので以下に引用する:

『交渉人』

ライス国務長官の足元から生じる中東の障害

by ヘレーン・クーパー記者:ニューヨークタイムズ紙2006年8月10日付記事

ワシントン、8月9日-ヒズボラとイスラエルの戦闘が開始された先月、ロシア・バルト海沿岸の客室で、米国務長官コンドリーザ・ライスは次々展開する危機に対するアメリカ合衆国川の対応策の草案作成に夜を徹して取り組んでいた。

G8会議を控えて、その夜に彼女が練り上げた戦略は、伝統的で華やかな外交の手間を省いたものだった。即時停戦要求はせず、イスラエルには正当防衛の権利があると明確に述べるというものだ。

そのやり方は、翌朝ブッシュ大統領によって了承され、現在の中東危機に対するアメリカの基本的戦略としての役割を果たしているが、政治的青写真以上のものだった。政権内部の或る高官の話によれば、ライスは「ディック・チェイニー副大統領のような、イスラエルに対するアメリカの強力な支援を推進する政権内の保守派を満足させるために、通常の国務省の対応とはかなり異なる立場をとった。」

ここ4週間ほど中東危機で奮闘中のライス長官は、海外で仲裁人になろうと努力するだけでなく、自らの政権内の対立の中でもまとめ役になろうとしている。

ワシントン側の、即時停戦に対する抵抗とイスラエルへの支援を頑強に主張する勢力が、ライス長官が他国と連携することを妨げている。一部のアメリカ同盟国は、武力衝突を止めさせ、持続的な停戦を実現するための打開策を探っている。

先日の中東訪問では、ライス長官は現在の紛争に対して非常に異なる姿勢を持つ二人の人物を同行させた。1人は、国家安全保障理事会上級理事を務めるエリオット・エイブラムス、もう1人は、経験豊かな外交官で前エジプト米大使を務め現在は中近東担当国務次官補の職にあるC.デビッド・ウェルチである。

ウェルチ補佐官は、伝統的な国務省の姿勢を代表し、合衆国は中東問題で中立的に行動すべきと考える。エイブラムス氏は、チェイニーと強く結びついている新保守主義者(ネオコン)の1人で、ブッシュ政権にイスラエルへの支援を促している。ライス長官の訪問中、エイブラムス氏はチェイニー氏のオフィスへの直接連絡を絶やさなかった。

政権内部の或る高官の話によれば、エルサレムの古い街を見渡せるデヴィット・シタデル・ホテルの中の、ライス長官の宿泊するラビン・スイートで7月29日に行われた会議も含め、ウェルチ氏とエイブラムス氏は対立しており、ウェルチ氏がアラブ側の視点を披露すると、エイブラムス氏はイスラエル側の姿勢をはっきり示したという。

ライス長官がエイブラムス氏を国家安全保障理事会職員に選んだのは2002年で、当時彼女はまだ国家安全保障会議担当大統領補佐官だった。エイブラムス氏の公職復帰は意外だった。1980年代のイラン・コントラ事件でエイブラムス氏が果たした役割に対して、1992年にジョージ・H・W・ブッシュ大統領が恩赦を与えると、エイブラムス氏は二度と政治に関わる仕事はしないと言っていた。

国務省高官の話では、エイブラムス氏は、ライス長官と彼女の政策に批判的な新保守主義者達との間で緩衝役を果たしているという。「エリオット・エイブラムスの才能は、彼がエリオット・エイブラムスであるということですね」或る高官が言った。「イスラエルを充分に支援していないと彼が批判されるようなことがあるんでしょうか?」

国務省関係者の幾人かは、個人的にブッシュ政権のイスラエルより姿勢に反旗を唱え、ワシントンは危機の解決を試みようとせず、シリアと話し合うつもりがないと言っている。シリア政府は長年ヒズボラを支援しており、前回の紛争時には、イスラエルはシリアとの往復外交により事態を解決している。

2週間前、ライス長官は在ダマスカス米大使館のスティーブン・A・サシェ代理公使に、シリア外相ワリド・アル・モアレムとのダマスカスでの会談を指示した。二人は会見したが、上級高官の話では、モラレム外相は「穏やかに前向きな姿勢を示すことはなかった」らしく、それ以来交渉は行われていない。

中東地域と政権内部の緊張状態にウンザリした様子のライス長官は、いつになく個人的な、感情的な表現をすることがある。スイートでの会談の後、ライス長官、エイブラムス氏、ウェルチ氏、在イスラエル米大使リチャード・ジョーンズ氏は、イスラエルのエフード・オルメルト首相を囲んで夕食を取った。そこで、ライス長官は珍しく短気さの一端を見せた。アメリカ側の二人の高官の話によれば、48時間の空爆停止をライス長官が要求したことに対し、オルメルト首相が、レバノン住民に避難するよう警告したと応えると、ライス長官は首を振って否定したという。

「いいですか、我が国は(ハリケーン)カトリーナで同じことを経験してるんですよ。私達も正しいと思ってたんです」彼女は言った。「でも、避難したい人たちの多くは避難することができないと思い知ったんです。」

ライス長官はハリケーン・カトリーナに関して政府側の対応に直接関与していないが、昨年夏に彼女が同僚に語ったところでは、ライス長官は政府側の遅い対応に怒り、洪水に沈んだ街で立ち往生している住民の困難を軽減するようにブッシュ大統領を説得したという。

ライス長官はイスラエルから爆撃の一時停止をとりつけたが、それはわずかな間だった。爆撃は抑制されたものの、イスラエルが空爆を再開したとき、長官の機はイスラエル領空をわずかに離れたばかりだった。

米保守派の一部は、イスラエルのレバノン侵攻作戦を終了させるためにイスラエルに圧力をかけようとしているとして、ライス長官を厳しく批判している。ワシントンタイムズ紙が発行する保守派雑誌インサイト・マガジンは7月25日付けのオンライン版記事で『コンディをクビにしろ:保守派外交筋は国務省がブッシュの政策をハイジャックしたと批判』という見出しを掲載した。
(以下略)


レバノン侵攻直後、ライス国務長官がイスラエル政府に停戦を促すと、オルメルト首相側は「引っ込んでろ!」と米国務長官を突っぱねたという噂もあったが、実際はもう少し穏やかだったのだろう。しかしイスラエル側が強気の態度を保つ最大の理由がブッシュ政権内のネオコン派の支援にあることは間違いない。

タイムズ紙の記事で引用されている保守派のインサイト・マガジン誌は、8月8日付記事でブッシュとコンディの亀裂について詳細に伝えている。以下に引用:

ブッシュとコンディ、イスラエルを巡り衝突:大統領が初めてライスを圧倒

インサイト・マガジン2006年8月8日付記事

ブッシュとコンディ

8月7日、テキサス州クロフォードで行われた大統領会見におけるブッシュとコンディ


米国務長官コンドリーザ・ライスは、ヒズボラとの戦争を継続するようにイスラエルを支援するブッシュ大統領に対して次第に失望するようになった。

国務省関係筋の話によれば、ライス長官はレバノンのヒズボラ拠点への攻撃を終わらせるようイスラエルへ圧力をかけようとして、何度も妨害されているという。イスラエルがレバノンの村落を爆撃し25人の住民を殺したことで、国務長官の先週の中東訪問は粉砕されたと関係筋は話している。

「彼女があんなに怒っているのを見たのは初めてです」或る補佐官は言う。

イスラエルとヒズボラの戦争に対する合衆国の対応を巡り、ブッシュ政権内でもブッシュ家内部でも意見は分裂している。同時に、ライスが国務長官に任命されて以来、初めてブッシュ大統領は彼女を退けるようになった。

「過去18ヶ月間、外交に関してはほとんどコンディに任せきりだった。」事情に詳しい政権高官は言う。「それが突然、大統領は別の意見を持ち、決定権を持とうとしている。」
(中略)
ライス長官はリチャード・ルガー上院外交委員長も含め同委員会の共和党議員達から支援を受けている。ブッシュ父やその側近達も、パレスティナとの外交解決に向けたイスラエルへの圧力に続いて、レバノンの件では即時停戦を求めている。

ライスの最大の支援者は、ブッシュ父の政権時代に国家安全保障会議担当大統領補佐官を務めたブレント・スコウクロフトである。関係者によれば、ライス長官の相談相手であるスコウクロフト氏は、イスラエルの戦争を合衆国が支援することで、中東の石油産出国、特にサウジアラビアとの関係を台無しにすることになると、議会やホワイトハウスの友人達に訴えているという。
(中略)
ブッシュの姿勢はディック・チェイニー副大統領やドナルド・ラムズフェルド国防長官、さらに国家安全保障担当補佐官スティーブン・ハドリーにより支援されている。彼等は大統領に、国際的圧力を撃退し、ヒズボラ、イランとシリアに対し戦略的なダメージを与えるための充分な時間をイスラエルに与えるよう求めている。
(中略)
関係者によれば、ブッシュはヒズボラ撃退に失敗しつつあるイスラエルに失望しているという。共和党幹部の一部は、イスラエルのレバノン進撃が遅れていることに仰天していると関係者は伝えている。

事情通は言う。「ブッシュのユダヤ人の友人の1人は、実際にイスラエル高官を電話で呼び出して、“一体何をやっているんだ”“戦うつもりがあるのか?”と怒鳴り始めました。」
(以上)

今年に入ってから、ブッシュ父は失態の続くラムズフェルド国防長官を密かに更迭しようと目論んでいたが、息子はその干渉を拒んだという。米軍上層部から国防長官更迭の要求が連続した際に「決定するのは私だ。何が最良かを決めるのは私。ドン・ラムズフェルドには政権に留まってもらうんだ。」と言ったのは、父親へのメッセージでもあるらしい。息子を溺愛するあまり、何でもお膳立てしようとするこの元大統領に、そろそろブッシュ・ジュニアも嫌気がさしたのだろう。そういえば大統領になる前、外交知識のない息子にコンドリーザ・ライスを紹介したのも父ブッシュだった。ブッシュ家の本拠であるコネチカット州で、ブッシュ政権擁護派として知られる民主党の重鎮議員ジョセフ・リーバマンが先日の予備選挙で新人の反戦派議員に敗北した件は、ブッシュ親子の確執をより一層深くするだろう。(リーバマンは結局無党派として上院議員選挙に出馬すると言っている。)

東部エリート出身の父ブッシュが家庭では東部訛りで話すのに対抗し、テキサス訛りで粗野に振舞うように常に心がけているといわれるブッシュ。空軍兵士として第二次大戦で戦闘に参加し(操縦していた爆撃機が父島上空で日本軍に撃墜され海中に沈んだが、生き残った)優秀な成績でイエール大学を卒業し、石油企業を一代で成功させた41代大統領の父ブッシュは、ブッシュ・ジュニアにとって永遠に超えられない壁だ。

ジョージ・W・ブッシュが父親よりも多くの戦争を開戦し、宗教に深く傾倒するのは、父親の闘った戦争を疑似体験し、父親より高位の存在-神に近づくことで自身の劣等感を克服しようとしているようにも見えるが、もちろんこれは筆者の単なる想像である。

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