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2006/09/01

クルーグマン:「反故にされた約束」

「連邦政府の対応については私が全責任を負っています。1年前、我々はカトリーナの教訓を活かし、何としても復興を支援すると約束しました。(拍手)当時ジャクソン広場で話した事が現在でも同様に真実であると伝えるために、本日、私はニューオリンズに戻ってきました。」

-2006年8月29日、ニューオリンズのウォーレン・イーストン高校にて行われた、湾岸地区復興についてのブッシュ大統領の演説より


「懺悔するしかない・・・大統領から指名された立場の者は、大統領を擁護するものです。そうすると、全くの真実を伝えるかわりに、(ホワイトハウス側の)主張に従うことになる。今、私が最も後悔しているのはそれです。」

-2006年8月29日、前FEMA長官マイケル・ブラウンのインタビューにおける発言。ブラウン氏はさらに、カトリーナ災害後のホワイトハウス閣僚会議でブッシュ大統領が、「批判の矛先がブラウンに向いてるのはありがたいな。私が非難されずに済む」と発言したと語った

経済学者ポール・クルーグマンのニューヨークタイムズ紙2006年8月28日付掲載コラムを以下に全文翻訳。
(文中リンク・脚注は訳者による)

反故にされた約束(Broken Promises)

by ポール・クルーグマン:ニューヨークタイムズ紙2006年8月28日付コラム

昨年9月、ニューオリンズ市街の、カトリーナ上陸以来ようやく電気が回復したばかりの場所に立ったブッシュ大統領は、「世界でも類を見ない最大の復興努力をする」と約束した。大統領が去ってすぐに、電気は再び消えてしまった。訳注

それから起こった出来事は、ブッシュ氏がイラク復興の名目で議会に180億ドルの予算配分承認を求めた際と同じであった。議会がその予算を承認してから数ヵ月後、イラク訪問から帰国した議員団は、我が国が現地で行っている素晴らしい仕事-例えば、校舎を塗り替えるとか・・・さらに校舎を塗り替えるとか・・・について情熱的に説明した。

しかし、イラクを統治していた連合軍暫定当局(CPA)が9ヵ月で店仕舞いすると、180億ドルの復興予算の内、わずか2%しか復興活動に支出されていないことが判明し、予算で賄うはずの復興計画のうち、開始されていたのはほんの一部でしかなかった。最終的に、アメリカはイラク国内インフラの最も基本的な修復作業すらやり損なった。現在、バグダッドで電気が使える時間は1日あたり7時間以下である。

そういうわけで、自国の湾岸地区についても同じような事態なのだ。ブッシュ政権は被災地向けに配分された予算金額について話題にしたがり、カトリーナ大災害の被災者支援にすごい仕事(heck of a job)をしていると国民を説得するべくPR活動を思案している。しかし、イラク国民がすでに学習したように、予算を配分することと、それを実際に復興活動に支出することは別の話で、今のところブッシュ政権は、昨年の約束を遂行するためにほとんど何も達成していないのである。

緊急支援と瓦礫の処分に数十億ドルが費やされたのは事実である。しかし、片付け作業すらまだ不完全だ。ニューオリンズでは災害で生じた瓦礫の内およそ3分の1が未だ残されている。そして、片付け作業の後に控える実際の復興作業はわずかに始まったにすぎない。

例えば、住宅所有者への現金支援を最優先事項とするべく、米住宅都市開発省とカトリーナ支援都市開発計画のために、議会は170億ドルの予算を承認したが、先週時点でたったの1億ドルしか支出されていない。ルイジアナ州の住宅所有者で連邦政府の支援金を最初に受け取ったのは、ほんの3日前だ。ミシシッピ州でも同様の計画があるが、支出されたのは未だにわずか数十件分しかない。

消防署や下水道設備の復興支援を受けられるはずの市当局では、実際の支援を受けるところまで事が運んでいない。ナショナル・ジャーナル誌の最近の報道でそのカフカ的状況が説明されているが、連邦支援金を必要とする街や地区は、複雑な手続きを経由するよう指示されており、台風でなぎ倒された街路樹の被害を検算するなどの作業になけなしの金と時間を費やし、さらなる事務処理要求に直面している。

現政権の擁護派は、復興作業の遅れはブッシュ氏の責任ではなく、政府機関が生来持つ非能率的な官僚主義の問題なのだと疑いなく主張する。反政府保守主義者にとってはそれが大切なのだ:統治任務に失敗してもなお、自身のイデオロギーを擁護するのである。

しかし、この件の非能率さに官僚主義を持ち出す必要はない。復興作業の進行が失敗しているのは、トップのリーダーシップが欠如している結果なのだ。

ブッシュ氏は復興の約束を果たすために素早く行動できたはずだ。しかし大統領はそうしなかった。ホワイトハウス側から行動が示されることがないまま月日が無為に過ぎ、復興計画を進行させる切迫感は衰えてしまった。

華やかで精力的な人物を指名して、湾岸地域復興を監査させ、支援を求める被災家族や地域行政の賛同者として活躍させることもブッシュ氏にはできたはずだ。しかし大統領はそうしなかった。復興活動の「帝王」となっているはずの人物の名を、一体何人が言い当てることができるだろう?

ブッシュ氏は自身の身内主義と民営化で破壊させたFEMAを組織として回復させることもできたはずだ。しかし大統領はそうしなかった。現在でもFEMAはやる気がなく、組織を奮い立たせることができないままだ。FEMA職員として任命された者の内、現在残っている人数は84%以下である。

たぶん、湾岸地区に約束された支援は、いつの日か実際にやってくるのだろう。しかしそれでは、たぶん遅すぎる。住民や中小企業経営者の多くは、実現しない支援を待つことに疲れ、他所へ移住するだろう。被災を逃れたり、経営を再開した中小企業も、顧客不足で行き詰まるだろう。イラク同様にアメリカでも、復興の遅れとは復興を拒否されたも同じなのだ。そしてブッシュ氏はまたしても、約束を反故にしたのである。
(以上)


訳注:カトリーナ大災害直後の2005年9月15日夜、ブッシュ大統領がニューオリンズの被災地を訪問する際、ホワイトハウス側スタッフはPR撮影のために訪問場所だけ一時的に街灯を点灯させ、あたかも被災地ですでに電気が回復したかのように演出した。そして大統領のテレビ用撮影が終了すると、すぐに灯りは消された。他にも、大統領が被災地を訪問する度に保安目的で救援物資の空輸を停止させたり、テレビ撮影用に臨時で作業員を集めて堤防修繕作業を演出したりと、ブッシュ陣営は政府対応への批判を実際の救援活動ではなくプロパガンダで対応しようと努めていた。その結果、ホワイトハウスへの批判の声はさらに大きくなった。)

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