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2007/04/09

クルーグマン:『撹乱と公民権剥奪』

米国を代表する経済学者の1人、ポール・クルーグマン氏のNYタイムズ紙4月2日付け掲載コラムを以下に翻訳して掲載。(文中リンクは訳者による)

今回のコラムでは経済格差問題について触れられている。アメリカ国内の格差に関する報道で最近目についたものをいくつか以下に列挙していこう:

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デトロイトで販売されている中古住宅。中古車よりも安い金額で入手可能。


  • 全米労働者のおよそ3人に1人にあたる4,000万人ほどが、医療保険・退職金・病欠手当て・家族休暇等の手当てがない低賃金労働に従事している。(経済政策調査センターの報告
  • 全米各州の都市部ではホームレスが急増しているが、各都市の行政側はボランティアによる炊き出し活動に法的制限を実施するようになった。食料の無料配給を制限すれば、ホームレスの集中を抑えられるという行政側の目論みがあるらしく、当然ながらボランティア団体側は反発している。(USAトゥデイ紙報道
  • 米国内にはホームレスになった退役軍人が20万人ほど居るという(CBS放送)が、イラク戦争から帰還後に退役しホームレスになる若者も急増している。(ワシントンポスト紙
  • 米製造業の衰退を象徴する貧困地区のひとつであるミシガン州デトロイトでは、自動車よりも安い値段で中古の一戸建てが購入できるようになった。米国で一般的なサイズの住宅が300万円くらいで販売されており、特に安い例としては、有名なモータウンレコードスタジオの近所で、寝室が4つある邸宅が7,000ドル(約83万5,000円)で売りに出されているという。(ロイター通信
  • アメリカの自動車産業は衰退しているが、CEO達にはその影響は全くないらしい。2006年度に127億ドル(約1兆5,149億1,900万円)という記録的な損失を出したフォード社の新CEOは、就任してたった4ヶ月で2,800万ドル相当(約33億3,998万円)の記録的な報酬を受け取った。このCEOの巨額報酬の影で、フォードの工場が閉鎖され、3万人の従業員が解雇されたという。(CNNMoney

撹乱と公民権剥奪(Distract and Disenfranchise)

by ポール・クルーグマン:NYタイムズ紙2007年4月2日付けコラム

私はブッシュ政権の権力乱用に関する学説を唱えているが、いよいよそれが明らかになってきた。結局のところ、ブッシュ政権は所得格差の拡大により追い込まれたと私は考えている。

説明させていただこう。

1980年、ロナルド・レーガンがホワイトハウスを勝ち取った時、保守思想は大多数のアメリカ国民に受け入れられた。その頃の合衆国は、まさしく中流層の国家だった。当初からリベラル思想を育くむ原動力となった莫大な格差と社会的不正義は、少なくとも白人有権者にとっては、すでに昔日の出来事に思えたのだ。そのような社会では、“大きい政府”こそが敵であり、他人のための福祉に自分達の税金が使われると多くの有権者に信じ込ませることは容易だった。

しかしその後、我が国は再び深刻な格差社会になってしまった。収入額の中央値は1980年以来たったの17%しか増加していないが、国民の0.1%を占める最富裕層の収入は4倍に増加している。今では、ニューディール政策に向けた政治的結束が形成されていく1920年代のレベルまで、富裕層と中流層の格差は拡大している。

社会が変わってしまったことに有権者は気づいている。所得配分表を詳細に調べなくとも、現代の金持ちが建設する邸宅が、かつて泥棒貴族が建てたものよりはるかに巨大であることを有権者はよく理解している。雇用統計を調べるまでもなく、自分達の給料がたいして増えていないことくらい知っているのだ。ピュー・リサーチ・センターの世論調査によれば、労働者の59%は、20年前もしくは30年前に比べて現代では生活費を稼ぐのがずっと困難になったと考えているという。

ブッシュ大統領でさえも、「国民の中には、ダイナミック経済の煽りで労働者が置き去りにされているという事実を懸念する向きもあるようだ」と今年1月に認めるとおり、拡大する所得格差が認識され、政治課題として浮上しているのはご存知のとおりである。

しかし、現代の共和党では、格差拡大に対して意義ある対応はできない。共和党系団体がそうさせないからである。先週金曜と土曜日に、ほぼ全ての共和党大統領候補者達がフロリダ州パームビーチを訪れ、供給側重視の減税・民営化促進を主張する圧力団体『成長クラブ(Club for Growth)』に敬意を表した事実にも、そのジレンマをみることができる。

共和党は時代遅れの思想に固執し、大きな問題にぶつかった。国民の真の要求に対応できる国内政策を提示できなくなったのである。ではどうやったら選挙に勝てるのか?

その回答は、しばらくの間、国民を撹乱させ、それに公民権剥奪を組み合わせることにあった。

911同時多発テロ事件は、それ自体が壮大で神がかりな民意の撹乱だった。事件の前までは、2000年大統領選挙活動中に見せたほどにはブッシュ氏が穏健でなかったことが悟られ、ブッシュ政権への不満が国民の間に拡がりつつあったのだ。しかもテロ事件は、国民の注意を逸らす多くの機会を提供した。個々の政治課題について議論する代わりに、共和党側は民主党員がテロに弱腰であると非難するだけで済んだのである。2004年の民主党全国大会の直後に、古く不確実な情報を元にテロ警戒レベルが引き上げられた件を皆さんは憶えているだろうか?

しかし、国民の注意を逸らすのもそこまでだった。もう一つの手段は公民権剥奪だ。貧困層に属する国民は、格差是正のために具体的な政策を実施する政党を選択する傾向があるので、投票箱から遠ざけなければならなかったのだ。

公民権剥奪が2000年大統領選挙時のフロリダ州で「重罪犯の排除」という形で登場し、多くの正当な有権者が公民権を剥奪され、それがブッシュ氏がホワイトハウスに到達する第一理由になった件を記憶にとどめておこう。しかも、どうやらこの公民権剥奪こそが、司法省が政治化されることになった目的の中核にあるらしいのである。

解雇された米連邦検事達の中には、『不正投票(voter fraud)』-現在この語句は「黒人なのに投票している(voting while black)」とほぼ同義になっている-を追跡するよう圧力をかけられた者が複数いた。。司法省公民権課の前職員の話によれば、ジョージア州の有権者認定法、トム・ディレイのテキサス州選挙区再分割法など、事実上アフリカ系有権者から公民権を剥奪することになる共和党の政策に意義を唱えると、検事としての活動を封殺されることが度々あったという。

良い知らせは、共和党の総力を挙げた権力乱用をもってしても、2006年の中間選挙には充分ではなかったということだ。そして2008年大統領選挙は共和党にとってさらに厳しいものになるかもしれない。なにしろ、クリントン政権時代に実は庶民派でなかったと富裕層と大企業を安心させてきた民主党陣営は、どうやら時代が変わったと悟っているらしいからだ。

減税政策に忠誠を誓う共和党大統領候補達がフロリダ州パームビーチに群れを成していた頃、民主党側は集結し、国民皆保険制度の確立に献身すると宣言した。共和党陣営が、それに応じて何を提示できるのか、予想するのは難しい。
(以上)

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