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2007/10/06

ミャンマー:軍政とビジネス

2003年3月当時、フランス最大の天然資源開発企業トタル社は、ミャンマー南部での資源開発ビジネスを巡りトラブルを抱えていた。同社が参加するヤダナ・パイプライン建設事業において、ミャンマー軍事政権の強制労働に関与したという批判にさらされていたのだ。

騒動に対処するため、トタル社はコンサルティング企業BK Conseilを雇い入れた。同社を経営するベルナール・クシュネール氏は、『国境なき医師団』創設者の一人で、人道活動界で顔の効く人物だ。トタル社の依頼を受けたクシュネール氏は、ミャンマー現地で調査を行い、開発事業から撤退するよりも、批判を抑えるためにPR活動の拡大を通じてイメージ改善努力に力を入れるべき、と報告書でトタル社側にアドバイスした。

“企業コンサルタント”のクシュネール氏がトタル社に報告した日は2003年9月29日。-それから4年後の2007年9月下旬、ミャンマーの最大都市ヤンゴンで僧侶を中心とした大規模な反政府デモ行進が行われると、政府軍は集まった市民に向けて無差別に発砲した。日本人ジャーナリストの長井健司さんがミャンマー軍兵士によって路上で銃撃され、殺害された。報道によれば、現在までに200人以上が射殺され、6,000人以上の市民が政府軍に身柄を拘束された可能性があるという。

トタル社撤退すべしとの批判が国内で強まる中、サルコジ仏大統領はトタルを含む国内企業に対し、ミャンマーへの“新規”投資を凍結するよう呼びかけた。すでに1998年から、トタル社以外にフランスからミャンマー開発事業に参入する企業は存在していないので、これはつまり、ミャンマーの資源開発は現状どおりトタル社に任せよう、という巧みなセールストークと受け取られている。また、トタル社側は、ミャンマーでの事業継続をする理由として、フランス企業が撤退したら“倫理面で遥かに劣る”中国その他の企業が投資を拡大し、ビルマ国民にとって事態はさらに悪くなる、と説明している。加えてフランス外相も、トタル社はミャンマー軍事政権と事実上協力関係にあるのでは、との批判を一蹴し、フランス最大・世界第4位の天然資源開発企業である同社を擁護した。

ところでそのフランス外相の名前は?ベルナール・クシュネール。

サルコジ仏大統領がブッシュ米大統領を真似ているとしたら、クシュネール仏外相はコンドリーザ・ライス米国務長官を真似ているのだろう。ミャンマーのヤダナ・パイプライン建設事業には仏トタル社の他に米シェブロン社も参加しているが、ライス米国務長官は1991年からブッシュ政権入閣直前までシェブロン社の重役を務めていた。

アメリカ合衆国は、ミャンマー軍事政権に対して1997年から制裁措置を布いているが、それ以前から同国と提携する米ユノカル社のミャンマー開発事業は例外として継続され、後にユノカル社を買収したシェブロン社も同様に制裁措置から除外されている。フランス流に言い換えると、確かに“新規投資は凍結”されているのだ。

軍事独裁、天然資源と聞けば、“ブッシュ政権のダース・ベイダー”ディック・チェイニー米副大統領の関与を期待するのは自然なことだろう。チェイニー氏がCEOを務めたハリバートン社は、90年代からミャンマー軍事政権を顧客に抱え、ヤダナ・パイプライン初期工事に携わっていた。シェブロン同様ハリバートン社もまた、対ミャンマー経済制裁の適用外という特別待遇を受けている。CNN放送の名物番組『ラリー・キング・ライブ』でこの件を問われたチェイニーは言った:「この世界は民主主義だけで成り立つわけじゃないんだよ。

AFPの報道によれば、ミャンマーの天然資源開発には、中国海洋石油(CNOOC)、中国石油化工(Sinopec)、タイ石油開発公社(PTTEP)、Petronas(マレーシア)大宇インターナショナル(韓国)、トタル(仏)、シェブロン(米)ONGC Videsh(インド)等が参入しているという。また、日本政府は新日本石油開発と共同出資で日石ミャンマー石油開発を設立し、イェタグン・ガス田を管理している。これら企業のうち、今回の騒乱を懸念して事業計画を変更したり、政府から撤退を指示された企業は今のところ一社もない。新日本石油の広報担当者はAFPの取材にこう説明した:「政治情勢とエネルギービジネスは別の問題と考えています。」

国際人権NGO団体のヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、2006年度にミャンマー軍政が天然ガス開発事業から得た総収入は21億6,000万ドル(約2,524億1,700万円)。この金の一部が、ミャンマー軍事政権が中国、インド、ロシアから武器を購入したり、軍事支援を求める際の資金源になっているという。

ミャンマー軍政の最大のパートナーである中国政府は、「内政には干渉しない」として制裁には慎重姿勢のままだ。つまり、政治情勢と武器ビジネスは別の問題、というわけだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのブラッド・アダムズ氏は言う:「ASEANが歯に衣を着せなかったにも拘わらず、中国、ロシア、インド並びに日本は、冷静な対応を求めるというだけより若干強い声明を出しているにすぎない。こうした国々の冷静さを求める声は、ビルマでの銃声や殴打、そして拘束にかき消された。」

ミャンマー軍政の弾圧により、これまでに何人の犠牲者が出たのかは不明だが、関係各国首脳や企業の方々の説明を鑑みると、いちどスタートしたビジネスを、発表だけでなく実際に中止するのは非常に困難のようだ。もっと多くの犠牲者がいないと、仕事を途中で投げ出すわけにはいかない-ということなのだろうか?

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