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2008/04/06

聖火が照らす北京の闇

オリンピックのシンボルマークである五つの輪が象徴するものは、元々は五大陸の結合であるという。

しかし2008年度、それが象徴するのは手錠、足枷、首輪になるのだろうか。あるいは、名も無き人々を貫いた銃撃の痕なのか。

北京2008


2008年3月10日、中国チベット自治区ラサ近辺で、チベット民族蜂起49周年を記念し、僧侶たちが抗議行進を開始した。平和的であるはずの行進は、一般のチベット民衆が続々と参加するにつれて、大掛かりな抗議活動へと拡大し、一部は暴徒化した。行進開始直後から参加者の逮捕・拘束を図っていた中国当局は、3月14日から武装した警官隊や装甲車を出動し、チベット民衆に向け発砲。中国政府当局の発表では死者20人弱、チベット亡命政府側発表では140人ほどが犠牲になったとされている。

一方で、中国政府の発表によると、チベット人の暴徒によってこれまでに警官2人が殺害され、漢民族の住民18人が犠牲になったと伝えられているNYタイムズ紙の報道によれば、中国国内では、チベット人側の犠牲については言及せず、暴徒の犠牲となった漢民族住民の映像、商店街を破壊する暴徒化したチベット人らの映像が繰り返し配信されているという。

誰も望まないはずの憎悪の連鎖。それを扇動するのは、強大な権力と統制されたメディアだ。

人民網によれば、中国公安部は今回の事件を『3・14事件』と命名し、この“暴力犯罪事件”が“ダライ集団が組織した『チベット人大蜂起運動』計画の一部”であると説明し、警察当局がチベットの一部の寺院・僧院から「銃178丁、弾薬1万3013発、刃物359丁、爆薬3504キロ、雷管1万9360本、手榴弾2発など、大量の攻撃用武器」を押収したと伝えている。当局側は、ダライ・ラマ支持者らのチベット独立派が、強力な武装攻撃を目的とした「決死隊」を結成していると主張している

国営メディアやインターネットで騒動を知った中国国民の間では、政府側の情報統制を批判する層も一部あるが、大多数は愛国心を刺激され、チベット人に対する敵愾心が高まり、“政府当局側の対応は弱腰すぎる”と感じているようだ。インターネット上では、チベット人側の犠牲を強調する各国メディアに怒った国内外の中国人らが、「CNN、BBC等西欧メディアのバイアスに抗議する」署名活動を活発に行っている

yahooもgoogleも検閲済み、ブログも掲示板もメルマガも監視され、ネットカフェで政府批判をすれば逮捕。そんな環境の中で、さらに政府擁護の署名活動があるというのだ。それでも、中国人民はどうやら息苦しさを感じないらしい。

英BBC放送が世界34カ国1万7,457人を対象に実施した電話インタビューによる最新の世界世論調査によれば、自分の国が世界にポジティブな影響を持つと考える日本国民はわずか36%(「美しい日本」との宣伝文句を真に受ける日本人はヤッパリ少なかったのだ)。傲慢の代表格であるアメリカ人でさえ、自国が世界にウケていると思う割合は56%だ。ところが、中国が世界に「ポジティブ」な影響力を持つと回答する中国人は91%に達しており、彼らの「愛国感情」は世界でダントツのトップなのである。

したがって、中国当局の言うような、ダライ・ラマは民族分離を狙いチベット人民を武装させている危険人物、といった説明に同意する中国国民はかなり多いのかもしれない。実際、今から半世紀ほど前、CIAはダライ・ラマや亡命チベット人組織を支援し、武力による民族革命を試みようとした。中国当局が神経質になるのも当然だろう。しかしそれでも、チベットの僧侶たちは、AK-47を掲げて日本の中古車に箱乗りして来たわけではない。投石者相手に銃殺はやり過ぎではないか。

中国の英字新聞チャイナ・デイリーは、4月3日付社説で激烈なダライ・ラマ批判を展開している。一部以下に引用すると:

それにしても、なぜダライ・ラマは漢民族とチベット民族の軋轢を扇動するのか。チベット自治区が成立してから、中央政府はチベット支援を国策に据え、大量の資金と人的資金を投入してきた。過去5年間で、チベットへの政府援助金と助成金は950億元(135億ドル)で、それ以前の5年に比較して2倍の金額に達している。2001年以来、国営企業と政府省庁も67億元相当の金融支援を行い、総計で2876件の開発計画を立ち上げ、2479人の職員を派遣し、チベットの発展を支援してきた。

チベットの発展は、漢民族も含めたあらゆる民族の協力に依存している。現在のチベット民族は友愛と協調で結束した大家族として暮らしている。多くのチベット人が、チベット発展の歴史における最高潮を喜んでいる。
(以下略)

この社説を政府寄り過ぎると批判するつもりは毛頭ない。チベット民族が中国政府の“支援”に大満足ならば、オリンピック前にまたとない良いニュースのはずだ。世界中のメディアがチベット自治区内で自由に取材活動し、見たもの全てを各国で放送したのなら、オリンピックの開会式報道は好景気に沸くチベット人の笑顔で彩られ、ビョークリチャード・ギアの人気が底なしになる可能性もあるだろう。

しかしそれにはまず、中国政府が国内外の報道規制を完全に撤廃しなければ始まらない。国民の9割が愛国心に燃える国で、なぜ人民を監視・抑圧して、銃弾で異論を封じ込める必要があるのだろうか。

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中国の北京五輪組織委員会が、長野市で4月2贈日に行われる聖火のリレーや式典を直接妨害する行為だけでなく、中国政府を批判するメッセージを書いたプラカード類を掲げるなどの活動も排除するよう要求している。長野市のリレー実行委員会が24日、明らかにした。 実行..... [続きを読む]

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