カテゴリー

アクセスの多い記事

« 沈黙のクリスマス | トップページ | ウィキリークス:その前夜 »

2010/03/22

オバマ政権最大の政治課題のひとつ、米医療保険制度改革法案が成立へ

2010年3月21日午後9時過ぎ(日本時間2010年3月22日正午過ぎ)、米国下院議会で民主党が推し進めてきた医療保険制度改革法案が、賛成219対反対212で可決された。このところ公約破りをずっと批判されつづけてきたオバマ大統領は久しぶりに「これこそ変革の成果」と胸を張って見せた。下院では民主党議員らが歓喜の声を挙げ「Yes, we can!」などと合唱している。

日本のような国民皆保険制度が存在せず、国民の4,600万人が民間の医療保険に加入できない無保険者で、年間4万4,000人が医療保険未加入により医者にかかれず死亡する。そんな医療後進国アメリカで、医療保険加入率を9割まで上げようという法律を成立させようというのだから、今回の法案成立はたしかに民主党にとって歴史的快挙だろう。90年代にクリントン政権が躓いた医療制度改革を、ようやくスタート地点までもってくることができたのだ。

しかし今回の「医療制度改革」法案の中身はといえば、先進国並みの医療制度を求める多くのアメリカ人にとっては、ゼロよりマシという程度のもので、あまりにも期待はずれなのだ。

今回の医療保険改革法案の骨子を非常に単純にまとめると、現在民間の医療保険に加入できない米国民の大半を、税金を使って民間の医療保険に強制加入させるというものだ。これにより、新たに3,200万人が民間医療保険業界の顧客になれるということだ。つまり基本的には、米国医療保険業界のマーケティングのために国民の税金を支出することになる。

マイケル・ムーアが映画『シッコ』で指摘したように、米医療問題の最大の原因は既存の米医療保険業界の体質にある。したがって今回の医療制度改革の草案がスタートした頃、既存の民間医療保険業界に対抗できる公設の医療保険組織の設立を求める声が多くあがり、最初の下院法案では「パブリックオプション」という呼称で提案されていた。

当然ながら、パブリックオプションに強硬に反対したのが医療保険業界。さっそく大量のロビイストを議会に送り込み、公設医療保険というアイデアを議会から排除させてしまった。ホワイトハウスの提示した法案にも、上院の法案にも公設医療保険案は含まれなくなった。この時点で、抜本的な米医療改革を望む声は完全に無視されてしまった。

そんなわけで、今回の上院の医療制度改革法案に反対する声は、リベラル派と保守派の双方から沸き起こった。リベラル派は、税金を使って腐敗した民間医療保険業界の市場拡大を助けるなど言語道断であり、せめて公設医療保険組織を成立させて民間と価格・サービス面で競争させるべきだという主張が大半。反対に保守派からは、政府が国民の自由を奪って保険に強制加入させるとは合衆国の精神に反しており、また民間医療保険業界に対する政府の規制強化は市場の自由という原則に反するとの批判、さらに医療制度改革のために巨額の公金投入で財政赤字が拡大するという批判が大半だ。

さらに話をややこしくしたのが、妊娠中絶問題である。民主・共和という党派制を超えて、妊娠中絶に医療保険を適用するなら法案に反対というポジションの議員も多かった。この問題については法案では明確さを確保せず、オバマ大統領が「中絶費用に公的資金を支出しない」と特別命令を出すということで決着したようだ。

ところで、今回の医療制度改革法の可決により、どれくらいの医療問題が解決されるのか?実は法案の中身が実行されるのは2014年あたりからで、しかも必要とされる公的資金がどれくらい膨れあがるのか、ホントのところかなりいいかげんな見積もりしかされていないらしいので、今後の展開によってはまた事態がひっくり返るかもしれない。なにしろ今年は中間選挙があり、2012年にはオバマ大統領の再選が控えている。民主党のリベラル派議員たちは今回の法案採決に渋々ながら賛成したが、新法施行前にパブリックオプションを含めるよう今後も活動する様子だ。反対に共和党及び保守派支持層は、中間選挙で巻き返しを図り、うまくいけばオバマ再選を阻む強力な草の根運動を展開していくだろう。そして民間医療保険業界は相変わらずロビー活動を強化し、新制度による業界規制強化を骨抜きにしていくだろう。金融業界が連邦政府、議会等の規制をロビー活動で骨抜きにしてきたように。

« 沈黙のクリスマス | トップページ | ウィキリークス:その前夜 »

医療問題」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/1730/47877226

この記事へのトラックバック一覧です: オバマ政権最大の政治課題のひとつ、米医療保険制度改革法案が成立へ:

« 沈黙のクリスマス | トップページ | ウィキリークス:その前夜 »

2016年5月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31