カテゴリー

アクセスの多い記事

« ウィキリークス:その前夜 | トップページ | 「歴史的訪問」とオバマ政権の遺産 »

2011/02/21

書評:『ウィキリークス WikiLeaks アサンジの戦争』

「利用者参加型オンライン百科事典「ウィキペディア」と同様の形式を使い、政府などの内部告発文書を公開、検索できる場をネット上に作ろうという「ウィキリークス(Wikileaks.org)」計画が進んでいる・・・」。2007年1月24日、産経新聞はそう報じていたらしい。たしかにそんなニュースを目にした憶えがあるが、あの頃はたいして気にもとめなかった。

しかし、それからわずか4年後、毎日ニュースサイトをチェックする中で、ウィキリークスに関する報道を追わない日はなくなった。しかも今年になってからは、ウィキリークス関連の書籍刊行が続いている。今回はその中でも特に重要な書籍、『ウィキリークス WikiLeaks アサンジの戦争』(講談社)を読んだので感想を報告。この本は、ウィキリークスと連動報道してきた英ガーディアン紙の書籍『WikiLeaks: Inside Julian Assange's War on Secrecy』の邦訳である。この邦訳本、おそらく当初は英日同時刊行の予定で物凄い勢いで翻訳編集作業が行われたはずだ。実際にはガーディアン紙が英国内で予定よりも早く刊行し、しかもその抜粋をいち早くオンラインで公開してしまったが、大急ぎで出版された邦訳本にしては、カバーデザインから翻訳内容まで、実に良くできている。


原著の奇妙なデザイン

書籍の中身について書く前に、ちょっと脇道を。英ガーディアン紙がウィキリークス関連書籍を刊行すると公表してから中身をアレコレ想像していたが、最初にガーディアン紙サイトでそのカバーデザインを見たときは、ちょっと笑ってしまった。私にはこれが、なんとなくウィキリークス編集主幹のジュリアン・アサンジ氏を小馬鹿にしているように思えるのだ。以下がそのデザインである:

Insidejulianassangeswaronsecrecy


これを見て真っ先に頭に浮かんだのが、「史上最低の映画監督」エド・ウッドの伝記本だ。以下のデザインである:

Nightmareof_ecstasy

面白いことに、英ガーディアン紙のウィキリークス本では、イントロに続く第1章で、ウィキリークスの拠点に向かうメンバーの中に、ジュリアン・アサンジが(諜報機関の尾行を防ぐつもりで)老女の扮装をして同行するというシーンをトコトン滑稽に描いている※注1。 映画ファンなら良くご存知だろうが、エド・ウッドの趣味も女装であった。なんという偶然!


史上最大の暴露が実現する過程を詳細に描く

さて、『ウィキリークス WikiLeaks アサンジの戦争』では、その前半部分で、ウィキリークスの世紀の暴露の情報源(とされている)米陸軍のブラッドリー・マニング上等兵、ウィキリークス生みの親にして組織を体現するジュリアン・アサンジ編集主幹という二人の主役が、その生い立ちと共に詳しく紹介される。そして、マニングとチャットで知り合い、後に彼の機密漏洩を当局へ密告することになるエイドリアン・ラモ、後にウィキリークスを離反するアサンジの元相棒ダニエル・ドムシャイトベルク、ウィキリークス米国代表ヤコブ・アップルバウムらが、ウィキリークスの誕生物語と共に脇を固めつつ登場する。彼らは皆、ウィキリークスの背景にある「ハッカー文化」を体現する人々であり、中盤から登場する英ガーディアン紙記者たちの「ジャーナリスト文化」との違いが印象づけられる。

書籍の中盤では、マニング上等兵の漏洩以降、次々にウィキリークスが公開していく暴露内容-イラク駐留米軍のヘリによるロイター通信記者殺害ビデオ、アフガニスタン戦争報告書、イラク戦争報告書の報道内容について解説されている。そして本書のクライマックスは、25万通を超える米国務省の外交公電文書の公開に至るまでの、ガーディアン紙を筆頭に各報道機関の悪戦苦闘-ドイツ・シュピーゲル誌の予期せぬ先行公開のドタバタを含む-と、英ガーディアン紙とジュリアン・アサンジの間で起こる衝突と和解を描写する部分だ。世紀のスクープの舞台裏をタップリと楽しませてくれるこの部分だけでも、この書籍は充分に読む価値があると思う。


暴露界のスーパースター、ジュリアン・アサンジは「英雄」か、稀代の大馬鹿者か

さらに著者たちは、ジュリアン・アサンジが激怒するのを充分考慮しながら、彼の最大の恥部となる「スウェーデン・真夏の7日間」、つまり「性犯罪」容疑者として逮捕される経緯について「第12章 世界一有名な男」で詳細にレポートしている。この事件で、ウィキリークスとアサンジ、さらにガーディアン紙とアサンジの間には決定的な亀裂が入ってしまう。しかし皮肉なことに、この恥ずかしいスキャンダルは世間の注目を集めるにはまことに好都合で、結果としてジュリアン・アサンジとその組織の活動が過去の暴露以上に知られることになった。ジャーナリズム史上最大のリークとなる米公電暴露の直前に、PRの下地は整ったのである。

ガーディアン紙の原著が刊行されてすぐ、アサンジはウィキリークス公式ツイッターを通じて怒りをあらわにし、名誉毀損でガーディアン側を訴える素振りを見せた。著者の一人、デビッド・リーとアサンジがツイッターで罵り合う姿はなんとも滑稽だ。漏洩された機密ファイルを抱え、米政府の追跡に怯えながら、その最中に行く先々で知り合った女性と次々寝るというジュリアン・アサンジは、確かに緊張感に欠けるトンマな男といえる。しかしそれでも、彼はマスコミから「漏洩元のブラッドリー・マニング」について質問されると、必ず「仮にその人物が漏洩元であれば・・・」などとキッチリ訂正し、あくまで公的にはマニング上等兵を漏洩元と認めない。また、戦争報告書など漏洩した政府文書中の米軍協力者の名前を伏せる加工をすることを当初拒否した件で「無責任」と批判されているが、漏洩文書に手を加えることでその信憑性が疑われることを嫌ったのではないか。これらはいずれも、ブラッドリー・マニングの勇気に対するジュリアン・アサンジ流の気遣いを垣間見せているように思えるのだ。


“何か”を変えていくために

ジュリアン・アサンジの気まぐれで奔放な性格が、ガーディアンを筆頭にウィキリークスに関わる人々との間で亀裂を作ったとはいえ、本書を読む限り、彼らの関係が完全に崩壊する心配はどうやらなさそうだ。彼らを根底で繋げているのは、自らの人生を賭けて大量の米軍機密を持ち出したブラッドリー・マニング上等兵の存在にあると思う。本書の冒頭に近い第2章で、マニング上等兵自身の印象的な言葉が綴られている。このフレーズだ:

「すべての情報を外に出すことが大事なんだ・・・・・・奇妙な理由付けかもしれない。
本当に“何か”を変えられるんじゃないかってね」

これはおそらく、ハッカー界、報道業界、そしてウィキリークスに関わる全ての人々の心に共通する想いではなかろうか。反目しあいながらも、この感性、そしてブラッドリー・マニングという存在が、やがてウィキリークス的なものを、もう一段階高い場所へと導いていくかもしれない。

新聞社は自らについていつでも語ることができるし、ジュリアン・アサンジについては誰もが語りたがっている。一方で、ブラッドリー・マニングが自らについて自由に語ることができる日は果たして来るのだろうか。それだけが、本書を読む者の心に重くのしかかる。


書籍ディテール評価
装丁と
カバーデザイン
ハードカバー(上製本)、スピン(しおり)付き。カバーデザインはすでに書いたとおり、ガーディアンの原著よりずっと「ウィキリークスっぽい」。
帯コピーアサンジに最も早く、最も深く密着した 英国『ガーディアン』紙だから暴けた“漏洩”の前真相 アメリカ政府が本気で怯える内部告発サイト・衝撃の全貌」 背の部分には「緊急出版」。ブームの渦中に出版される本だからもっとスゴイ大袈裟なコピーでも許されるかも。ちなみに原著は宣伝コピーでジュリアン・アサンジを評して「稀代の変人転じて世界の有名人」「果たして彼はインターネットの救世主なのか、サイバーテロリストなのか?情報の自由のために戦う戦士、はたまた性犯罪者?」と書いている。これだけでもアサンジを激怒させるに充分な内容。
印刷物としての読みやすさ全349ページ。文字は大きくて行間も適切、読みやすい。
注釈と索引注釈・索引はナシ。原著にも注釈はないが、索引はある。また原著には冒頭に登場人物一覧と、付録で米公電文書の一部が掲載されている。

注1:邦訳では、この第1章が最初に来て、ガーディアン編集主幹アラン・ラスブリジャーの書いたイントロが「エピローグ」として書籍の最後に付けられている。

(以上)

« ウィキリークス:その前夜 | トップページ | 「歴史的訪問」とオバマ政権の遺産 »

ウィキリークス」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/1730/50931113

この記事へのトラックバック一覧です: 書評:『ウィキリークス WikiLeaks アサンジの戦争』:

« ウィキリークス:その前夜 | トップページ | 「歴史的訪問」とオバマ政権の遺産 »

2016年5月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31