メイン記事へジャンプ

11/26/2007

マクレラン元大統領報道官が回顧録でブッシュ政権を批判

スコット・マクレラン大統領報道官

「私がここから逃げ出したくなったことがあるかって?そんなこと毎日考えてるさ!(笑)」

2004年3月9日、ホワイトハウス定例記者会見で演台に立ったスコット・マクレラン大統領報道官が思わず漏らした言葉。

前任者のアリ・フライシャーが強圧的な態度で不評だったのに対し、人当たりがソフトなスコット・マクレランは“テディベア”と呼ばれ、また苦しい嘘で記者の質問をはぐらかし窮地に追い込まれる毎日から“シンプル・スコティ”とあだ名が付いた。彼はテキサス州知事時代からブッシュを支えた側近中の側近の1人でもある。

母親のキャロル・キートン・ステイホーンは女性初のオースティン市長に選出された地元の名士で、2006年テキサス州知事選挙で保守系独立候補者として立候補した。その際、ホワイトハウスを去ったばかりのスコット・マクレランが選挙マネージャーを務めたが、ブッシュ大統領は共和党公認の現職リック・ペリーを推薦し、マクレランの母親は落選した。ちなみにスコット・マクレランの父親は、ベストセラー書籍『ケネディを殺した副大統領―その血と金と権力』の著者、バー・マクレラン氏。

ブッシュのホワイトハウスに勤務し、マスコミに嘘をつくことを日常業務としていた大統領報道官が回顧録を執筆した。書いたのは嘘?それとも真実?

ブッシュ政権で2003年7月から2006年4月まで大統領報道官を務めたスコット・マクレラン氏が、現在執筆中の回顧録の中で、CIA工作員身元漏洩事件(ヴァレリー・プレイム事件、通称PlameGate)において、ブッシュ大統領が隠ぺい工作に直接関与したことを仄めかし、マスコミをにぎわせている

問題となっている回顧録のタイトルは『WHAT HAPPENED:Inside the Bush White House and What's Wrong with Washington』。同書から、版元によって公開された文章を翻訳すればこんな感じである:

世界最高の権力を持つ指導者たる人物が私に要求したのは、彼の代わりに語り、イラクで大量破壊兵器を見つけられないという大失敗の渦中で失われた信頼を取り戻す手助けをすることだった。そこで私は、ホワイトハウス記者会見室の演台に立ち、カメラのフラッシュを浴びながら、二人のホワイトハウス高官-カール・ローブとスクーター・リビー-の汚名を公的に晴らそうとしていた。

そこにはひとつだけ問題があった。説明は真実ではなかったのだ。

私は知らされぬままに嘘の情報を伝えていた。しかも、私が嘘を伝えるにあたって、政権内で最も高いポジションにある5人の人物が関与していた。ローブ、リビー、副大統領、大統領首席補佐官、そして、大統領本人であった。

United States v. I. Lewis Libby

The United States v. I. Lewis Libby』リビー裁判の全記録。CIA工作員実名漏洩事件捜査の全貌を知るに最適の書籍。


Hubris

Hubris: The Inside Story of Spin, Scandal, and the Selling of the Iraq War』プレイム事件を最もわかりやすく詳細に報告した書籍。


Fairgame

Fair Game: My Life As a Spy, My Betrayal by the White House』身元を漏洩されたCIA工作員ヴァレリー・プレイム本人の回顧録。最終的にCIAの検閲で黒塗りが入った。


The Politics Of Truth: A Diplomat's Memoir: Inside The Lies That Put The White House On Trial and Betrayed My Wife's Cia Identity

The Politics Of Truth: A Diplomat's Memoir: Inside The Lies That Put The White House On Trial and Betrayed My Wife's Cia Identity』ヴァレリーの夫、元駐ガボン米大使ジョセフ・ウィルソン氏の回顧録。湾岸戦争時に駐イラク米大使代理としてサダム・フセインと直接対峙し、父ブッシュから感謝された件など、読ませるエピソード満載。

果たしてマクレラン氏は真実を書いたのか?FBIのこれまでの捜査と、リビー裁判での検察側・弁護側の各証言で得られた情報によれば、ヴァレリー・プレイムの身元暴露作戦に主導的役割を果たしたのがチェイニー副大統領であり、ブッシュ大統領がそれに直接関与した疑いは濃厚だ。

そして、マクレラン元大統領報道官は、回顧録で本人が書いているとおり、ブッシュ政権のウィルソン夫妻攻撃作戦には直接加担していなかったことも捜査で明らかになっている。(前任者のフライシャー報道官は工作員名漏洩に加担していたが、法廷証言と引き換えに起訴を逃れた。)言われるままにコキ使われていたので、回顧録で反撃を試みたわけだ。

同事件では、CIA工作員名を最初にマスコミに漏洩したリチャード・アーミテージ国務副長官は起訴を逃れ(漏洩相手はワシントンポスト紙記者でベストセラー著作『攻撃計画(Plan of Attack)―ブッシュのイラク戦争』執筆に向け取材中だったボブ・ウッドワードだが、彼は結局ヴァレリー・プレイムについて書かなかった)、チェイニー副大統領の腹心であるI・ルイス・リビー副大統領主席補佐官が2件の偽証罪、1件の偽供述、1件の司法妨害により今年3月に有罪判決を受けた。リビー側が上訴を検討する中、7月にはブッシュ大統領自身がリビー被告の減刑を表明している。

リビー裁判に提出された証拠資料(副大統領デスクのメモ)によれば、2003年10月の時点でリビーは、ホワイトハウス定例記者会見でリビー補佐官が機密漏洩に関わっていないと嘘の弁明をするようにスコット・マクレラン大統領報道官に命令して欲しいとチェイニー副大統領に願い出ている。(着任したばかりのマクレラン報道官はカール・ローブとは知己があったが、リビーの件で記者対応するのは嫌がっていた)しかしチェイニーは「1人のスタッフのために大統領のクビを危険にさらすことはできない」と冷たく対応した。(捜査が進展すれば、ブッシュ大統領自身の関与が暴露されるとチェイニーは予測していた?!)哀れ、リビー副大統領補佐官はブッシュとチェイニーの保身のために生贄にされたのであった。有罪になってヤケクソになったリビーが、事件の真相をぶちまけないように、ブッシュは素早く減刑宣言をした・・・あるいは、せっかく米世論がイラン攻撃に夢中になっているのに、「イラク戦争の大義」という過去の出来事に再び注目を集めて欲しくないというところだろう。

注意すべきは、スコット・マクレランの回顧録が、本人の執筆途中でその一部を公開されたという事実だ。刊行予定日が来年4月であることを鑑みると、プロモーションには早すぎる。マクレランは、全てを書き上げる前に、ホワイトハウスの反応を見たかったのだろうか?今のところマクレラン本人はマスコミ取材を拒否しており、回顧録の一部を公開した真意は知ることができない。

漏洩事件で収監されそうになった元タイムズ誌記者マット・クーパーは「リビーとローブがマクレランを騙していることにいつもイライラしていたが、彼もそうだったんだね」と暴露を褒めている

宗教保守派を中心に急速に支持を拡大している共和党大統領候補マイク・ハッカビーは、意外にもブッシュ政権攻撃側にまわった。彼は言う。「自分がワシントン関係者でなくて良かったといえる事例だ。これは深刻な疑惑だが、私達には真相を知ることができない。この件は徹底した調査によって国民に真実を伝えるべきだ。」

イラク戦争侵攻前の大量破壊兵器問題の取材で悪名を馳せた元NYタイムズ記者ジュディス・ミラーは、プレイム事件ではリビーを庇って収監された唯一の人物。彼女は今回の騒動に関してこう言っている:「この政権じゃ、ワシントンで何が起きようが、私はもう驚かないわ。」

ミラーの予測は当たるだろう。ブッシュ政権の内部にはまだまだスキャンダルが詰まっているはずだ。


| | トラックバック (1)

08/28/2007

CIA工作員名漏洩事件:ヴァレリー・プレイムの回顧録がいよいよ刊行

この秋、アメリカ政界で最もスキャンダラスな著作がついに刊行されることになった。CIA工作員名漏洩事件(通称プレイムゲート事件)の渦中の人物で被害者でもある元CIA工作員、ヴァレリー・プレイムの回顧録である。

当初CIAは、元職員である彼女に対して回顧録出版を許可しなかったため、ヴァレリー・プレイムは今年2月にCIAを相手に裁判を起こし、8月初旬に回顧録出版の許可を勝ち取ったばかりだ。CIA側の回顧録公開条件は非常に奇妙で、彼女がCIAに勤務していた具体的・詳細な期間については言及してはいけないというものだった。しかしCIA工作員名漏洩事件に伴う議会調査で、彼女のCIA勤務期間の大半はすでに知れ渡っている。ともあれ、当初8月に刊行される予定だったこの回顧録は、CIAの通常検閲で問題がなければ、10月22日に正式に発売されることになった。

イラク侵攻前のブッシュ政権による情報工作活動を克明に記したベストセラー書籍『HUBRIS』には、この女性CIA工作員に関する詳細な経歴が紹介されている。それによると、ヴァレリー・プレイムはペンシルバニア州ハンティントンバレー生まれのスイス系アメリカ人で、父親がNSA(国家安全保障局)勤務経験のある空軍中佐、母親が小学校教諭という家庭で育ち、ペンシルバニア州立大学在学中に学友のトッド・セスラーと結婚、直後に22歳で夫婦揃ってCIAへ申し込んだという。

Hubris

Hubris: The Inside Story of Spin, Scandal, and the Selling of the Iraq War ブッシュ政権と親ブッシュ系ジャーナリストたちのイラク侵攻をめぐる情報工作について詳細に調査した好著。

身辺調査を受け、CIAへの“入社”が認められて諜報員としての職業訓練課程に入る直前、夫は諜報員の道を断念し、ヴァレリー・プレイムは再び独身になった。

ヴァレリーはCIA工作員に志願した。CIA工作員教習課程では、最初の10週間で合衆国政府職員として、またCIA職員としての基礎教練を受ける。45人の同期のうち、22歳の彼女は最年少の訓練生であり、その美貌と聡明さからおおいにモテたらしい。彼女と同期だった人物は後の取材でヴァレリー・プレイムの印象について“抜群のカラダをした天然のプラチナ・ブロンドだ”と表現している。

基礎訓練課程が修了すると、今度はバージニア州ウィリアムスバーグにあるCIA軍事教練施設:通称『ザ・ファーム』(パーリー演習場)で基礎軍事訓練を受ける。この訓練過程の期間は約1年弱で、訓練生は迷彩服、軍靴、背嚢、その他を着用する。この軍事教練過程では、航空機からの降下、敵対地域での行軍、敵対海域から工作員を極秘裏に上陸・国境を越えて侵入させる訓練、爆発物の取り扱い、マシンガンやライフル、RPG等各種武器の使用、さらには敵国で拘束された際の尋問に耐えるノウハウ等をマスターするという。

1986年秋頃、ヴァレリー・プレイムは『ザ・ファーム』を卒業し、正式にCIAケース・オフィサーとなった。“本社勤務”を3年経験して、1989年にはCIAギリシャ支局に派遣された。ケース・オフィサーの業務は、駐在先国の政府職員をスパイとしてリクルートし、機密情報を盗み出すことであるという。ケース・オフィサーがリクルートしたスパイは、CIA用語では“エージェント”と呼ばれるそうだ。仮にヴァレリー・プレイムのような女性が日本で活動していたとしたら、永田町はあっという間にエージェントだらけになってしまうだろう・・・あくまで仮の話だが。

海外勤務CIA工作員の身分としては、合衆国政府職員として外交特権を付与されるオフィシャル・カバー(official cover)と、一般の民間人として政府と無関係の職業を装うノン・オフィシャル・カバー(nonofficial cover、略称NOC)に大別される。オフィシャル・カバーの場合は大使館等の海外公館に武官もしくは国務省職員として勤務し、仮に諜報工作活動が暴露されても外交官特権により駐在国での逮捕は免れる。一方でNOCの場合は、諜報活動が暴露された場合、公式には米政府からの保護を受けられないので、外国に派遣されていた場合は当該国の法律に従い逮捕され、拘束され、あるいは刑務所送りになるという重大なリスクがある。

ギリシャ支局に勤務した頃、ヴァレリー・プレイムはオフィシャル・カバーだったが、90年代初頭にはNOCに身分が変わったという。2003年にブッシュ政権によって身元を暴露された時も、彼女の身分はNOCのままだった。しかも2001年から2006年の退任時まで、彼女が所属していた部署はCIAの大量破壊兵器拡散防止部門で、担当はイラク・イランの大量破壊兵器情報であった。

Thepoliticsoftruth

ヴァレリー・プレイムの夫で元駐ガボン米大使ジョセフ・ウィルソンの回顧録The Politics Of Truth: A Diplomat's Memoir: Inside The Lies That Put The White House On Trial and Betrayed My Wife's Cia Identity


ブッシュ政権がサダム・フセインの脅威を国民に語っている頃、ヴァレリー・プレイムと、彼女の2回目の結婚相手であるジョセフ・ウィルソン元駐ガボン米大使は、イラクがニジェールからウランを購入したという情報が嘘であることを突き止め、あらかじめブッシュ政権側に説明していた。イラク侵攻を間近に控えた2003年3月8日、ジョセフ・ウィルソンはCNN放送に出演し、ブッシュ政権の大量破壊兵器情報は怪しいと示唆した。米軍がイラクで大量破壊兵器を発見できないことに米国民が首を傾げていた2003年7月6日、ジョセフ・ウィルソンはNYタイムズに寄稿し、ブッシュ政権がイラク侵攻のために脅威を捏造した疑いがあると書いた。それはまさしく真相だった。ジョセフ・ウィルソンの影響力拡大を恐れたブッシュ政権側は、政府寄りのマスコミ関係者を総動員してヴァレリー・プレイムの身元を暴露し、ジョセフ・ウィルソンを脅迫した。

結局のところ、ブッシュ政権が開戦前に世界に示した“フセイン政権が大量破壊兵器を開発している証拠”に関する3種の諜報材料-移動式生物・化学兵器施設があるというイラク亡命者の証言、ニジェールでのウラン極秘購入文書、ウラン濃縮装置用とされるアルミ管-はいずれも嘘であった。しかもこれら諜報が非常にいいかげんな分析と信頼性に乏しい情報源によって構成されている事実を、ブッシュ政権の閣僚達は充分承知していた。

国連でイラクの大量破壊兵器保有について世界に説明したコリン・パウエル米国務長官は、自分がいいかげんな証拠を提示していることを自覚していた。

イギリスでは、ブレア首相が「イラクは45分以内に大量破壊兵器を実戦配備出来る」と世界に向けて嘘をついた。イギリス情報局秘密情報部(SIS:MI6)は、ブッシュ政権がイラク侵攻のために情報をデッチあげ、それに合わせてブレア政権が嘘をつくことを充分知っていた。その嘘を内部告発したデイビッド・ケリー博士はあっという間に変死した。

米国政府の提示した大量破壊兵器情報について、ドイツ連邦情報局(BND)、フランス対外治安総局(DGSE)、イタリア軍事保安庁(SISMI)はそれが誤っていることを事前に知っていた。

ブッシュのイラク戦争を手放しで支持した日本の小泉首相は、イラクが大量破壊兵器を保有していると断言し、戦争に協力した。果たして日本政府側は、米政府側の主張の裏をとっていただろうか?この件について伝える数少ない資料として、朝日新聞社刊『自衛隊 知られざる変容』から一部を引用する:

開戦の数ヶ月前。
防衛庁情報本部の分析部に指示が下った。
「イラクが大量破壊兵器を保有している可能性を報告せよ」
米軍からのイラク情報、欧米や中東の防衛駐在官が収集した情報、報道資料、インターネットで集めた海外の論文・・・・。これらを参考に作成された報告書は当初、大量破壊兵器について、「保有していると言われているが、明確な証拠はない」などと当たり障りのない結論となっていた。
だが、情報本部の上層部が怒った。
「米国がイラクの大量破壊兵器保有の疑惑をアピールしている時に、この結論は何だ」
報告書を検討する会議で、幹部の1人は自らペンをとって「保有する可能性は否定できない」という趣旨に書き改めた。
一方、小泉首相の関心は、大量破壊兵器の有無にはさほど向けられていなかった。イラク開戦時の緊急声明を発するまでの事務的な手続きを説明する官邸のスタッフにこう言った。
「事務的なことはいい。米国の行動を支持すると言える材料をできる限り持ってきてくれ。あとは自分で考える」


(以下略)

自衛隊でも、現場は冷静だった。しかし上層部は現場の仕事を歪めた。さらに官邸は、国家の在りかたまで歪めてしまった。小泉政権の犯罪的なまでの親米追従体制、それに続く安倍政権の国民生活無視体制・・・これらはまさしく安倍首相の言う「戦後レジーム」の集大成のように見える。

日本の政界では、テロ対策特別措置法の延長問題が注目を集め始めている。再検討の際には、9/11以降からイラク戦争・占領に至る日本の政策内容の是非について、また官邸がどのように政策決定したのかについても再考されねばならない。ぜひとも与党・野党超党派の調査委員会を立ち上げて、「なぜ小泉首相は大義なき米軍のイラク侵攻を支持したのか」について報告書を作成し、一般書店で販売してほしいものだ。なにしろ日本国民は、未だに何も知らされていない。

| | トラックバック (2)

04/10/2006

プレイムゲート:漏洩司令官ジョージ・W・ブッシュ

「ワシントンの情報漏洩に関してちょっと言わせてくれ。ワシントンでは機密漏洩が多すぎるんだ。行政府でも漏洩。議会でも漏洩。機密漏洩が多すぎるんだよ。もしも私の政権内で機密漏洩があったのなら、誰の仕業か知りたいね。その人物が法に背いたのなら、処分されることになるだろう。だから、捜査は歓迎するよ。私は・・・私は司法省が実際に良い仕事をすると確信している。(中略)私は真実が知りたい。もし誰か、政権内部もしくは外部の人間で有力な情報を提供する人物がいるのなら、公の場に名乗り出て欲しい。そうすれば漏洩疑惑が真実なのかどうかハッキリするし、仕事にとりかかれるからね。」

---ジョージ・W・ブッシュ、2003年9月30日の発言---

CIA工作員身元情報漏洩事件(プレイム・ゲート:PlameGate)捜査で、偽証罪で起訴されたリビー容疑者(元副大統領補佐官)の大陪審証言により、ブッシュ大統領が事件に直接関与していたことが先週明らかになり、米国政界はいよいよ大騒ぎになっている。

米下院諜報委員会所属のハーマン下院議員(民主党)はブッシュを『漏洩司令官(Leaker-in-Chief)』と名づけた。あまりに上手いネーミングなので、このブッシュの新たな呼称はあっという間にメディアに浸透した。

ホワイトハウス側の反応はというと、マクレラン大統領報道官は証言内容について否定せず、もはや言い訳も限界に近づいている。カード補佐官の次に辞任するのはマクレラン大統領報道官という噂も拡大している。マクレラン大統領報道官の母親はテキサスの有力者で、現在共和党を離脱しテキサス州知事に立候補して、ブッシュ大統領が支持するリック・ペリー現職知事と激突している。マクレラン報道官は母親の選挙キャンペーンを主導しているので、ブッシュとの関係は悪化せざるをえない。ちなみにマクレラン報道官の実父は、JFK暗殺調査本の新著『ケネディを殺した副大統領―その血と金と権力』を書いたバー・マクレラン氏である)

当該捜査を担当するパトリック・J・フィッツジェラルド特別検察官は、『ホワイトハウス内部の複数の人物が関わる、政権を批判した者に対する中傷、処罰、復讐を意図した共同活動』と評して、ブッシュ政権批判の姿勢をだんだんと強めている。

しかし、『ブッシュの頭脳』カール・ローブ大統領主席顧問はまだ諦めていない。メディア界で活躍する保守派のお仲間を動員して、いまや政敵となったフィッツジェラルド特別検察官やウィルソン氏への中傷キャンペーンを開始した。

『ネオコンのスポークスマン』ウィークリー・スタンダード誌の編集主幹ウィリアム・クリストルは、『ネオコンアナウンサー』ブリット・ヒュームと揃って『ネオコン放送網』フォックスニュースに登場し、「機密漏洩の話も検察側のやることも馬鹿げてる」「フィッツジェラルド検察官はブッシュ政権を中傷するための政治的動機に基づく捜査をしている」と猛烈批判した。(以前は検察官の捜査を褒めていた)

ワシントンポスト紙は4月9日版の社説で、大統領の行為を「良いリーク」と褒め称え、「ブッシュ大統領は機密を解除する権限がある。何がスキャンダルなのか?」と、まるで大統領報道官の代役のように主張している。NYタイムズ紙と並ぶ名門新聞社が、こんなにマヌケな論評を載せなければならない理由は、同社も事件に直接関わっているからである。ワシントンポスト紙編集主幹で、かつてウォーターゲート事件の報道で知られるスタージャーナリストのボブ・ウッドワード氏は、ヴァレリー・プレイムの実名についてホワイトハウスで(収監されたNYタイムズ紙ジュディス・ミラー記者と同じように)密かにリークを受けながら、捜査が開始されて2年間も事実を隠していたというわけで、同業者達から猛烈な批判を受けている(リビー容疑者の証言によれば、ブッシュ大統領は「ウッドワードにリークしろ」と直々に指名していたようだ。同時期に書かれたウッドワード記者の著作『戦争計画(Plan of Attack)』には、実際にかなりの機密が大統領の計らいでリークされているとみられ、著作自体がホワイトハウスの情報操作下にあると見なされている。現在でもワシントンポスト紙政治欄の記事はウッドワードが監査している状態にあるらしく、プレイムゲートに関する同社の報道や解析記事は今ひとつ信頼性に欠ける)

ところで、大手メディアの報道では「大統領には機密解除の権限があり、今回の件で罪に問われることはない」とばかりに、ホワイトハウス側の法解釈をそのまま鵜呑みにしているが、実のところその論拠はかなり怪しいのである。このあたりの法的解釈については、ニクソン政権時に同じような問題に関わった元大統領主席法律顧問ジョン・ディーン氏もコラムに書いているが、シンクタンク『アメリカ進歩財団』の説明がよくまとまっているので以下に引用する:

ブッシュ政権側の弁護は穴だらけ

ホワイトハウスとリビー容疑者の弁護活動の焦点は、2003年の大統領特別命令により大統領・副大統領一方的に機密を解除できるというものだ。先日、ゴンザレス司法長官は、ブッシュ大統領には「誰が機密を指示するのかを決定する生来の権限を持つ」と主張した。ホワイトハウス側も、ブッシュが機密解除を決めれば、機密は解除されたことになるという姿勢を維持している。しかし今回の事件の場合、大統領の意図は不明だ。まず第一に、2002年10月版の国家諜報評価報告書(N.I.E.)を漏洩した行為は、明らかに「閣僚及びCIAの当該書類作成担当者へ周知されることなく」実行されており、実際に機密解除していたのかどうか怪しい。さらに、特別検察官が供述調書の中で述べているように、当時の国家安全保障担当首席補佐官代理スティーブン・ハドリーが、公式にN.I.E.の機密解除手続きを進めている最中に、リビー容疑者はその一部を記者側に漏洩させている。

2003年7月18日に、ブッシュ政権は公式にN.I.E.の公表を決定したとホワイトハウス定例会見で説明しており、「その日以前は当該書類が機密解除されていなかった事実を示唆している」とジョナサン・ターリー法学教授は言う訳注:リビー容疑者は機密を記者に漏らした時期について2003年7月08日と証言している。)ジョージワシントン大学法学教授である同氏は、公共ラジオ放送で説明している:「最低に見積もっても、最高機密書類を身元調査していない記者に公開するよう部下に指示しながら、同時に当該書類を機密扱いにしておくという行為は、大統領として極めて不適切である。」

CIA工作員の身元暴露による重大な影響

ブッシュ擁護派の中には「CIA工作員の身元暴露はたいしたことじゃない」「ヴァレリー・プレイムの正体はご近所なら誰でも知っていたから暴露は悪くない」という妙な主張を展開する向きもあるが、CIA工作員の正体が暴露されると、その人物の立ち寄り先を調べれば各種諜報資産が台無しになり、CIAにとっておおいに打撃となる。具体的にいうと、ヴァレリー・プレイムの場合は:
  • 勤務先であるマサチューセッツ州ボストン、アーチ通り101号在の会社「ブルースター・ジェニングス共同法律事務所(Brewster Jennings & Associates)」がCIAのダミー会社であることが暴露された
  • ベルギーのブリュージュにある欧州学専門校(College of Europe)がCIA工作員の研修先であることが暴露された。
  • バレリー・プレイムの工作員としての業務内容は、イランの大量破壊兵器取引の監視であり、イラン国内の戦力見積が困難になった
ヴァレリー・プレイムの表向きの職業は『コンサルタント』、本職はCIA対兵器拡散部門工作員(非公式諜報員:NOC)、勤務先のダミー企業の社名は旧モービル石油経営者の名前を使っており、海外で活動する時のヴァレリーは『資源アナリスト』と自己紹介していた。そしてもちろん、ヴァレリー・プレイムの隣人は彼女の本業について全く知らなかった

| | トラックバック (0)