現在、アメリカ合衆国にはマイクという名の要注意人物が3人いる。マイク・グラベル、マイク・ブルームバーグ、そして、日本にもお馴染みの“野球帽を被ったむさ苦しい男”マイケル・ムーアだ。

今回はその、マイケル・ムーアの話題。彼の最新作『Sicko』(日本語タイトル『シッコ』、今年8月公開予定)は今年6月29日から全米で公開されるが、その前評判が凄まじい。特徴的なのは、前作『華氏911』と違い、今回はリベラル派はもちろん、かつてムーアに批判的だった人々からの支持も拡大しつつある事実だ。ワシントンで開催されたプレミア試写会にはダレル・アイシャ議員(共和党・カリフォルニア州)も姿を見せ、「医療危機問題は党派を超えた課題ですからね。」と作品を讃えた。前作に冷静だった政治批評家達からも、「ムーアのキャリア中ベスト作品」との呼び声が上がり始めている。
ムーアは、『シッコ』でアメリカの医療危機問題をテーマにしているが、作品中で取り上げるのは5,000万人近い医療保険未加入のアメリカ人だけではなく、民間の医療保険に加入しながら適切な保障が受けられなかった多くの中流層の人々の物語である。攻撃のターゲットは、医療現場で暴利を貪る医療保険業界と製薬業界、さらにそうした業界の横暴を許す政治家たちだ。ムーアはストレートに、民間医療保険業界は廃止すべきで、製薬企業には大幅な規制が必要と訴え、両業界から金を受け取って政府規制緩和に努める共和・民主両党の有力議員たち-リック・サントーラム、ヒラリー・クリントンらを批判し、カナダやイギリス、フランス他の先進国事例を引用し、国民皆保険制度の導入を主張する。
ムーアの批判に医療保険・製薬業界側が黙っているはずはなく、保守派シンクタンク各グループと協力して映画公開を前に着々と反論準備を進めているらしいが、おそらく今回の業界批判は抑えられないだろう。ムーアの主張に同意する国民は大勢いる。例えばウェブ動画最大手YouTubeはムーアに共鳴し、「医療サービス恐怖体験」「医療保険業者とのやりとり」の動画投稿を受け付けていて、投稿動画はどんどん増えている。全米で高い人気を誇る女性タレントのオプラ・ウィンフリーは自身のショーでムーアと対談し、公式サイトで専用意見投稿フォームを設けている。
医療業界以外で戦々恐々としているのは、どうやら2008年度大統領候補達らしい。ムーアは、民主党先頭集団(オバマ、エドワーズ、ヒラリー)らの医療制度改革案を「依然として医療保険業界を擁護する妥協案」として批判する。おそらくもっとも慌てているのは、映画の中で強烈に批判されているヒラリー・クリントンだ。かつて国民皆保険制度導入を試みたこの上院議員は、最近では医療保険・製薬業界から献金を受ける議員リストのトップに立ち、2008年大統領選にむけて、「我こそは医療危機問題にもっとも強い大統領候補」と宣伝している。この矛盾に彼女はこの先どう応えるつもりだろう?(もっとも、ムーアの“医療保険業界廃止プラン”に沿った医療制度改革を唱える民主党候補者は、プレミア試写会にも参加したデニス・クシニッチだけのようだが・・・)
『シッコ』にまつわる今後の反響については追ってカバーするとして、今回は以下に、英インディペンデント紙上に掲載された作品関連記事を翻訳して掲載。(文中リンクは訳者による)