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08/12/2007

クルーグマン:『実に恐ろしい事態』

今回はアメリカを代表する経済学者、ポール・クルーグマンの最新コラムを以下に翻訳。(2007.8.13:一部誤訳がありましたので訂正しました。多くの方からご指摘いただきました。ありがとうございました。)

実に恐ろしい事態

by ポール・クルーグマン:ニューヨークタイムズ紙2007年8月10日付コラム

1998年9月、超巨大ヘッジファンドL.T.C.Mの崩壊により、現在発生中の事例と様々な点で良く似た金融市場の大暴落が引き起こされた。98年の危機の際、私はFRB上層部による非公開の説明会に参加していたが、彼らは市場について悲観的な意見を述べていた。「我々に何ができるだろう?」参加者の1人が問いかけた。「祈ることだ」連邦政府職員は言った。

我々の祈りは通じた。FRBはL.T.C.M救済に乗り出し、当時の財務省長官ロバート・ルービンとFRB議長アラン・グリーンスパンは、投資家たちに安心するよう請け負った。そして混乱は沈静化した。

昨日、ブッシュ大統領は、MBA(経営学修士)仕込みの専門用語をひけらかしながら、同じように市場を安心させようとした。しかし、ブッシュ氏は、いわば、少々信頼性に欠けたようだ。一方で、別の誰かがそれをできるかといえば、判然としない。現在、我々は救済者不足で非常に苦しんでいる。非常に悪いことに、我々はそうした救済者がぜひとも必要な事態に陥りつつある。

金融市場でここ数日間発生している事態は、まさに金融経済学者を恐怖させている。流動性は尽きた。市場では、特に住宅ローンに裏打ちされた金融商品は、常に取引が行われているはずなのだが、それが買い手がいないために停止しているのだ。

これはちょっとした恐怖では収まらないかもしれない。最悪の場合、焦げ付きの連鎖を引き起こすかもしれないのだ。

現在の危機的事態は、過去数年間における経済的愚行に端を発しており、思い返せばドットコム熱と同じくらい不合理さに満ちている。住宅バブルは理由の一部に過ぎない。総じて、国民はまるでリスクがなくなったかのように振舞い始めていたのだ。

現在では、サブプライム融資の急増については誰でもご存知だろう。それにより国民は通常の財政的適格制限なしで住宅購入が可能になり、またそうしたローンは投資家の有価証券を購入する意欲の元になっていた。しかし、投資家は高利回りの企業債務-別名ジャンク債にも飛びつき、それがジャンク債のスプレッドを拡大させ、米国債の記録的な安値をもたらしたのだ。それによりジャンク債と米国債間のスプレッドは記録的水準まで低下した。

そこに現実が押し寄せた-突然ではないが、ダメージはじわじわとやってきた。まず、住宅バブルがはじけた。次に、サブプライムが崩壊した。そして、投資家のジャンク債に対する緊張感が増した。2ヶ月前、評価B社債の利回りは国債と比較して2.45%高いだけだった。今では、その差は4%を越える。

サブプライムが崩壊したせいで、投資銀行ペア・スターンズの運用する二つのヘッジファンドがつい最近倒産し、投資家を狼狽させた。それ以来、市場は躁鬱状態に陥り、ダウ・ジョーンズ工業株価平均で3桁の利益もしくは損失という状態が、ここ2週間では例外というよりも標準になってしまっている。

フランスの銀行BNPパリバは、同社の抱える3つのファンド運用を一時停止すると昨日発表したが、どちらかといえば、不吉の前兆である。銀行側は運用停止が必要な理由として、「一定の市場区分で流動性が完全消滅」したのが原因と説明した。つまり、買い手がいないというわけだ。

流動性が尽きると、私が言ったように、焦げ付きの連鎖を引き起こす恐れがある。金融機関Aが不動産担保証券を売れなくなり、別の金融機関Bに負う支払いに必要な現金を用意できなくなると、金融機関Bも金融機関Cに対する支払い金を用意できなくなる。さらに、現金を持つ者はそのまま沈黙する。ローン返済で信用出来る相手がいなくなるからだ。それが事態をさらに悪化させる。

そして、流動性危機の真の恐怖が訪れる:政策決定者の介入が非常に困難になるのだ。

FRBは、通常は利下げにより経済問題に対応する。FRBによる次月末までの利下げの公算について、昨日朝の時点で先物市場はほぼ100%確実と見込んでいる。またFRBは現金の不足する銀行に貸付もできる。昨日、海の向こうのFRBに該当する機関である欧州中央銀行は、すでに1,300億ドルを銀行側に貸し付けているが、必要なら無制限に資金を貸し付けると説明して、さらに240億ドルを追加投入した。

しかし、流動性が尽きると、通常の政策ツールは効果を充分発揮できなくなる。誰も貸付をしたくない場合、利下げは借り手にとってあまり貢献できない。銀行側に潤沢な資金を確保させても、金庫に現金が眠るだけでは効果が期待できない。

通常の政策が金融危機封じ込めに対してうまく機能しない場合には、FRBや、さらに重要なことに、米政府行政機関には、もっと外来的な手法も残されている。しかし、様々な事情により、とりわけ現政権の無能さを示す履歴を鑑みると、そこまでしないほうがいいだろう。

では、今回の危機が、1998年同様急速に過ぎ去るよう、望みを託してみよう。もっとも、私はそれを当てにしていないのだが。
(以上)

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12/04/2006

クルーグマン:「経済大波乱の兆し」

今回は、米国を代表する経済学者の1人、ポール・クルーグマンの最新コラムを以下に翻訳。


経済大波乱の兆し(Economic Storm Signals)

by ポール・クルーグマン:NYタイムズ紙2006年12月1日付連載コラム

「予測というものは難しい。未来については尚更だ」ヨギ・ベラならそう言っているはずだ。実際、この言葉は経済学者にとっておおいに頷けるもので、現在の状況について予測することですら大変なことがある。今回はそんな苦労のひとつである。

すでに2006年度も第4四半期を3分の2ほど過ぎており、皆さんは経済学者達が今期の状況についてすでに理解しているとお思いかもしれない。しかし、未来の話は別として、米国経済の現況に関して、専門家の評価はかなり混沌としている。

そこで悪いニュースをひとつ。経済の現況に関してこのような混乱が起きる時は、往々にして経済がひとつの転換点にさしかかっていることを示しており、経済は発展期から停滞期に向かいつつある(あるいはその反対)ということだ。このような転換点に際しては、普段は経済の流れを示す様々な指標があちこちを向いており、楽天派と悲観派の双方にとって、自説を裏付けるデータが見つかることになる。

最後にこうした混乱が起こったのは2001年度で、大半の専門家は合衆国経済が停滞期に滑り落ちていることに気づかなかった。不吉の前兆に思えるなら、その通りだ。不景気の予測に役立つ債券市場は、来年度から深刻な経済停滞期に向かうことを示している。

債券市場の指標について説明する前に、なぜ経済が転換点にきているのか説明しよう。

2003年中盤から2006年中盤にかけて、合衆国の経済成長を主に支えたのは巨大な住宅ブームだった。住宅ブームは直接雇用を創出し、消費者は住宅資産評価の上昇を担保に資金借り入れをして、惜しむことなく支出をしてきた。

その住宅ブームが今では駄目になった。しかし、楽天派と悲観派では、住宅ブームがどれくらい駄目になったのか、そしてそれが経済全体にどれくらい影響を及ぼすかについて意見が分かれている。

楽天派の中には、住宅バブルを暴走させた張本人としばしば批判されることもあるアラン・グリーンスパンがいる。火曜日に、ある会議の席上で、グリーンスパン氏は投資家達を前に「住宅販売数は安定化しているようだけれども」と言いつつ、住宅ブーム停滞の最悪期間は終了したと発言している。

しかしその次の日、政府は10月度の住宅販売数に関する憂鬱な統計を発表し、数ヶ月以前の予測を下方修正した。今週発表される様々な経済統計の全部とは言わないまでも、ほとんどの数値は予測よりもかなり悪化している。

悲観派は、減退した数値によって主張が裏付けられたと感じている。住宅ブームが牽引する景気停滞について予測していたルービニ国際経済研究所のヌリエル・ルービニ氏によれば、経済はすでに失速しているという。ルービニ氏は今期についてゼロ成長を見込んでいる。ドイツ銀行の経済学者達も同じことを言っている。

しかし、それはまだ少数派である。ほとんどの経済専門家は、心配いらないと言っている。では誰を頼るべきか?どうすれば自分が信じたいことを信じるという事態を避けることができるのだろう?

最適な回答としては、金融市場をみることかもしれない。株式市場では駄目だ-周知のとおり、株式市場では経済の方向性を見誤ることになる。債券市場が良い。(直近の5つの不景気のうち、株式市場が予測したのは9つだった、とノーベル経済学賞を受賞したMITの経済学者ポール・サミュエルソン氏が揶揄したのは有名だ)

夏以来、住宅ブーム失速が明らかになってから、長期債の利率は敏速に下がった。今では短期公債にはるか及ばない。投資家が今から長期債を買おうとするのは、つまるところ彼らが金利低下を期待している事実を示している。そうなる時とは、経済が弱体化し、連邦準備銀行が金利切り下げに踏み切る場合だけだ。要するに債権の買い手達は、将来経済が停滞することに賭けているのである。

債権市場が予測する経済停滞は、どれくらい深刻なものになるだろう?極めて深刻だ。金利と不景気の歴史的相関性を元にした統計モデルをみても、我が国が正式に不景気に突入しつつある公算は高い。景気停滞が正式な不景気と評価されないことになっても、失業率は急増することになり、ことによると2対1の比率で、2007年は非常に厳しい年になる公算が高い。

幸い、経済の大波乱が迫っていても、我が国には優れた指導者達がいる。ホワイトハウスは思想的に柔軟な人物によって支配されており、彼は様々な視点を受け入れ、政策とは直感的な根性ではなく慎重な分析によって決定されるべきと理解しているからだ・・・あれ?ちょっと待ってくれよ。
(以上)

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11/17/2006

クルーグマン:『真の庶民派』

米国を代表する経済学者ポール・クルーグマン氏のニューヨークタイムズ紙連載コラム2006年11月13日掲載分を以下に全文翻訳。

真の庶民派(True Blue Populists)

by ポール・クルーグマン:NYタイムズ紙2006年11月13日付コラム(truthout転載分)

バージニア州上院議員、ジョージ・アレンが驚き落胆するのも当然だ。1年前、ナショナル・レビュー誌の表紙で、アレン氏はその“素朴な性格”により“合衆国の次期大統領になる可能性が極めて高い”と評されていた。ところが今、彼の政治生命は終わろうとしている。

アレン議員を台無しにしたのは、“マカカ”や、イラク戦争だけではない。財界エリート達のお気に入りであるアレン氏は、拡大する格差問題を論点にする相手と対決したのである。そして、噛み煙草好きで、フットボールファンで、減税派で、社会保障民営化支持派のアレン上院議員は、真の庶民派に敗北を喫した多くのニセ庶民派の1人にすぎなかったということだ。

保守派運動の下で、共和党は有権者の大多数を犠牲にして、少数の富裕なアメリカ人達のために尽くしてきた。この現実を隠すために、保守派は論点をすり替え課題を変え続け、さらに卓越したマーケティング活動によって、民主党支持派をエリートに、共和党支持派を平均的なアメリカ人の代弁者のように演じさせることに成功してきた。

この巧妙な詐欺の手口は、論点を政策から個人の話題にずらすことだった。ジョン・ケリーはフランス語を話しウインドサーフィンをするということで、富裕層への減税を取り消して収益を医療保障の拡大に充てるという彼の政策には注目が集まらなかった。

しかしながら今年は、アメリカ国民も賢くなったらしい。

例によって、一部の記者達は未だに保守派のスピンにご執心のようだ。モンタナ州上院議員に当選したジョン・テスター氏の写真を掲載しながら、CNNは「保守派のような振舞いをしても、民主党員になれるのか?」と見出しを掲げた。言葉を変えれば、もしも右翼の描くリベラル像に合わない民主党員がいたら、その人物は保守派というわけだ。

しかし、ニューヨークタイムズ紙のロビン・トーナー記者とケイト・ザーナイク記者が昨日指摘したように、民主党の新潮流を形容するには「庶民派経済主義の強いうねり」がふさわしい。

モンタナ州選出の新人議員テスター氏

モンタナ州選出の新人ジョン・テスター氏は共和党現職の強豪コンラッド・バーンズ上院議員を破って当選。過疎化が進むモンタナ州北部に住む農家の3代目で、典型的庶民派として注目されている。(NYタイムズ紙

テスター氏の実際の政策を見てみよう。“最低賃金引き上げに賛成”、“社会保障民営化に反対”、“メディケア(高齢者向け医療保険制度)の負担軽減のために巨大製薬企業と対決し価格交渉をしよう”、“全てのモンタナ州住民が安価な医療保険に加入できるような医療サービス支援のために巨大保険企業と対決しよう”。

本人の角刈り頭は除外するとして、テスター氏のどこが保守的なのか?・・・まあいい、確かに彼は銃の所有に賛成だ。しかし経済政策では、現在の上院議員の基準から見ても、あるいは民主党上院議員達の基準から見ても、明らかに彼は中道左派に属する。同じようなことは、ペンシルバニア州選出のボブ・ケイシーや、ロード・アイランド州選出のシェルダン・ホワイトハウス、オハイオ州選出のシェレッド・ブラウンにもあてはまる。これら候補者達は、ひるむことなく庶民派の立場で立候補し、当選している。

ジョー・リーバマンはどうか?沈没船の瓦礫にしがみつく生存者のように、アメリカ国民の保守化が継続していることを示す証左として、彼の再選を挙げる者もいるようだ。しかし、リーバマン氏が勝利したのは、単に彼が否定と偽証を成し遂げたにすぎない。例えば、かつてイラク戦争とドナルド・ラムズフェルドを熱烈に支持しておきながら、彼は歴史を書き換えている。彼は共和党支持者の2/3の支持を集めて、自身の立場について多くの民主党支持者を混乱させ、まんまと再選を果たしたのだ。

なによりもまず、先週の選挙が見せた庶民派への潮流は、2000年大統領選挙後半でアル・ゴアが気づかされた庶民派への流れを立証している。しかし、この流れは現実の民主党の方向性に反映されるのだろうか?

必ずしもそうではない。相当数の民主党現職議員は、共和党議員同様に、企業の意向に沿った態度を見せている。昨年通過した過酷な破産法案を考慮してみよう。リーバマン氏は上院討議打ち切りに賛成し、議論を止めて法案通過に臨み、それから法案に反対票を投じた。賛成・反対のどちらにも受け取れる無意味な素振りだ。他に13人の民主党上院議員が討議打ち切りに賛成したが、それには大統領選出馬を表明したばかりのジョー・バイデンも含まれている。

民主党の新庶民派指向が問われる最初の大きな試練は、2003年通過の処方薬剤法の改善案だろう。民主党側は、医薬品価格の値引き交渉にメディケア(高齢者向け医療保険制度)向けを除外する条項の撤廃を求めている。しかし、それを実現するための細則こそ重大なのだ。メディケア改革は象徴的な意思表示にすぎないのか、製薬業界と保険業界に対し間接的に巨額の政府助成を与えている現在の制度を撤廃する、真の改革となるのだろうか。

新たな息吹を与えられた民主党員達は、果たしてこの国の方向性に真の変革を迫る用意があるか?今後数ヶ月のうちに、それは明らかになるだろう。
(以上)


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09/01/2006

クルーグマン:「反故にされた約束」

「連邦政府の対応については私が全責任を負っています。1年前、我々はカトリーナの教訓を活かし、何としても復興を支援すると約束しました。(拍手)当時ジャクソン広場で話した事が現在でも同様に真実であると伝えるために、本日、私はニューオリンズに戻ってきました。」

-2006年8月29日、ニューオリンズのウォーレン・イーストン高校にて行われた、湾岸地区復興についてのブッシュ大統領の演説より


「懺悔するしかない・・・大統領から指名された立場の者は、大統領を擁護するものです。そうすると、全くの真実を伝えるかわりに、(ホワイトハウス側の)主張に従うことになる。今、私が最も後悔しているのはそれです。」

-2006年8月29日、前FEMA長官マイケル・ブラウンのインタビューにおける発言。ブラウン氏はさらに、カトリーナ災害後のホワイトハウス閣僚会議でブッシュ大統領が、「批判の矛先がブラウンに向いてるのはありがたいな。私が非難されずに済む」と発言したと語った

経済学者ポール・クルーグマンのニューヨークタイムズ紙2006年8月28日付掲載コラムを以下に全文翻訳。
(文中リンク・脚注は訳者による)

反故にされた約束(Broken Promises)

by ポール・クルーグマン:ニューヨークタイムズ紙2006年8月28日付コラム

昨年9月、ニューオリンズ市街の、カトリーナ上陸以来ようやく電気が回復したばかりの場所に立ったブッシュ大統領は、「世界でも類を見ない最大の復興努力をする」と約束した。大統領が去ってすぐに、電気は再び消えてしまった。訳注

それから起こった出来事は、ブッシュ氏がイラク復興の名目で議会に180億ドルの予算配分承認を求めた際と同じであった。議会がその予算を承認してから数ヵ月後、イラク訪問から帰国した議員団は、我が国が現地で行っている素晴らしい仕事-例えば、校舎を塗り替えるとか・・・さらに校舎を塗り替えるとか・・・について情熱的に説明した。

しかし、イラクを統治していた連合軍暫定当局(CPA)が9ヵ月で店仕舞いすると、180億ドルの復興予算の内、わずか2%しか復興活動に支出されていないことが判明し、予算で賄うはずの復興計画のうち、開始されていたのはほんの一部でしかなかった。最終的に、アメリカはイラク国内インフラの最も基本的な修復作業すらやり損なった。現在、バグダッドで電気が使える時間は1日あたり7時間以下である。

そういうわけで、自国の湾岸地区についても同じような事態なのだ。ブッシュ政権は被災地向けに配分された予算金額について話題にしたがり、カトリーナ大災害の被災者支援にすごい仕事(heck of a job)をしていると国民を説得するべくPR活動を思案している。しかし、イラク国民がすでに学習したように、予算を配分することと、それを実際に復興活動に支出することは別の話で、今のところブッシュ政権は、昨年の約束を遂行するためにほとんど何も達成していないのである。

緊急支援と瓦礫の処分に数十億ドルが費やされたのは事実である。しかし、片付け作業すらまだ不完全だ。ニューオリンズでは災害で生じた瓦礫の内およそ3分の1が未だ残されている。そして、片付け作業の後に控える実際の復興作業はわずかに始まったにすぎない。

例えば、住宅所有者への現金支援を最優先事項とするべく、米住宅都市開発省とカトリーナ支援都市開発計画のために、議会は170億ドルの予算を承認したが、先週時点でたったの1億ドルしか支出されていない。ルイジアナ州の住宅所有者で連邦政府の支援金を最初に受け取ったのは、ほんの3日前だ。ミシシッピ州でも同様の計画があるが、支出されたのは未だにわずか数十件分しかない。

消防署や下水道設備の復興支援を受けられるはずの市当局では、実際の支援を受けるところまで事が運んでいない。ナショナル・ジャーナル誌の最近の報道でそのカフカ的状況が説明されているが、連邦支援金を必要とする街や地区は、複雑な手続きを経由するよう指示されており、台風でなぎ倒された街路樹の被害を検算するなどの作業になけなしの金と時間を費やし、さらなる事務処理要求に直面している。

現政権の擁護派は、復興作業の遅れはブッシュ氏の責任ではなく、政府機関が生来持つ非能率的な官僚主義の問題なのだと疑いなく主張する。反政府保守主義者にとってはそれが大切なのだ:統治任務に失敗してもなお、自身のイデオロギーを擁護するのである。

しかし、この件の非能率さに官僚主義を持ち出す必要はない。復興作業の進行が失敗しているのは、トップのリーダーシップが欠如している結果なのだ。

ブッシュ氏は復興の約束を果たすために素早く行動できたはずだ。しかし大統領はそうしなかった。ホワイトハウス側から行動が示されることがないまま月日が無為に過ぎ、復興計画を進行させる切迫感は衰えてしまった。

華やかで精力的な人物を指名して、湾岸地域復興を監査させ、支援を求める被災家族や地域行政の賛同者として活躍させることもブッシュ氏にはできたはずだ。しかし大統領はそうしなかった。復興活動の「帝王」となっているはずの人物の名を、一体何人が言い当てることができるだろう?

ブッシュ氏は自身の身内主義と民営化で破壊させたFEMAを組織として回復させることもできたはずだ。しかし大統領はそうしなかった。現在でもFEMAはやる気がなく、組織を奮い立たせることができないままだ。FEMA職員として任命された者の内、現在残っている人数は84%以下である。

たぶん、湾岸地区に約束された支援は、いつの日か実際にやってくるのだろう。しかしそれでは、たぶん遅すぎる。住民や中小企業経営者の多くは、実現しない支援を待つことに疲れ、他所へ移住するだろう。被災を逃れたり、経営を再開した中小企業も、顧客不足で行き詰まるだろう。イラク同様にアメリカでも、復興の遅れとは復興を拒否されたも同じなのだ。そしてブッシュ氏はまたしても、約束を反故にしたのである。
(以上)


訳注:カトリーナ大災害直後の2005年9月15日夜、ブッシュ大統領がニューオリンズの被災地を訪問する際、ホワイトハウス側スタッフはPR撮影のために訪問場所だけ一時的に街灯を点灯させ、あたかも被災地ですでに電気が回復したかのように演出した。そして大統領のテレビ用撮影が終了すると、すぐに灯りは消された。他にも、大統領が被災地を訪問する度に保安目的で救援物資の空輸を停止させたり、テレビ撮影用に臨時で作業員を集めて堤防修繕作業を演出したりと、ブッシュ陣営は政府対応への批判を実際の救援活動ではなくプロパガンダで対応しようと努めていた。その結果、ホワイトハウスへの批判の声はさらに大きくなった。)

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08/29/2006

クルーグマン:「税金取立て請負人、傭兵、総督」

経済学者ポール・クルーグマンのニューヨークタイムズ紙2006年8月21日付掲載コラムを以下に全文翻訳。(文中リンク・脚注は訳者による)

税金取立て請負人、傭兵、総督(Tax Farmers, Mercenaries and Viceroys)

by ポール・クルーグマン:ニューヨークタイムズ紙2006年8月21日付コラム

昨日ニューヨークタイムズが報じたところでは、米国内歳入庁(IRS)が、税滞納者への徴収業務を民間の借金取立て企業に外注しようと計画しているという。

これは恐ろしいアイデアだ。税金の徴収業務を民営化することは、歳入庁職員を増やすよりもコスト高になり、しかも職権濫用の危険性も派生する。しかし最も驚きなのは、この計画の先にあるのは、近代的政府の本質を後退させてしまうことだ。私は常々、保守派は国民を1920年代の生活に引き戻したがっていると言っていたが、どうもブッシュ政権は16世紀に戻したいらしい。

そして、税徴収の民営化は、偉大なる後退のほんの一部に過ぎない。

過去の悪政時代には、政府は行き当たりばったりの業務をしていた。税金を徴収する官僚制度は存在せず、それ故国王は徴税業務を、強引さで知られる『税金取立て請負人』に外注した。正規軍がない時代、君主は傭兵を雇い入れたが、傭兵たちは仕事を放り出して村々で略奪をする傾向にあった。政府には規定が存在せず、国王は行政をお気に入りの側近達に委任したので、しばしば腐敗と機能不全の両方に陥ることになった。

近代的政府はこれらの問題を解決するために、税の徴収には専門的な歳入部局を設立し、軍の規律を強化するために専門の部隊を編成し、専門の行政部を設立した。しかし、ブッシュ大統領はこうした革新性を明らかに嫌っており、まるで自身が国王であるかのように統治したがっている。

そんなわけで税金取立て請負人は復活するが、傭兵たちはすでに活動している。イラクには約2万人ほどの『保安請負業者』がいて、政府高官の護衛からイラク軍の訓練まで、重要な業務に従事している。

旧来の傭兵と同じく、現代の傭兵達も規律の問題を抱えている。昨年、米軍兵士が言っていた:「彼等は発砲するが、後始末は他の誰かがやらねばならない。」

軍の指揮系統から外れた武装兵達は、大災難を少なくとも一件引き起こしている。橋から吊るされた4人のアメリカ人を皆さんも憶えていることだろう。彼等はブラックウォーターUSA社の保安担当者で、海兵隊が入念な制圧戦略を実行している最中に、海兵隊の検問を無視して、ファルージャに迷い込んだのだ。4人が殺害された件と、それに伴い全面攻撃を指示し、犠牲者が増えると中止命令を出したホワイトハウス側の条件反射的行動は、反乱を制圧する最終機会を台無しにしたかもしれない。訳注

それでも、経営者が共和党の大口献金者であるブラックウォーター社は繁盛し続けている。カトリーナ大災害では、国土安全保障省により重武装のブラックウォーター社従業員がルイジアナに派遣された。

そうした契約事業者の場合、説明責任は誰にあるのか?先週、カスター・バトルズ社に対する1,000万ドルの損害賠償訴訟の評決が判事によって却下された。カスター・バトルズ社はバグダッド空港の保安業務を請け負う民間業者である。今ではイラクの復興を妨げる身内主義、腐敗、完全な非専門性を象徴する企業となっているカスター・バトルズ社の露骨な詐欺行為について、判事は異議を唱えなかった。

しかし判事の説明によれば、2003年4月から2004年6月の間イラク政府を統治したCPA(連合国暫定当局)は「合衆国政府の正式機関ではない」ので、その業務請負業者であるカスター・バトルズ社への市民代表訴訟は法的根拠を欠いているという。CPAは議会によって創設されたのではなく、国務省の一部門でもなく、他の政府機関にも該当しなかったのである。

ではCPAとは何だったのか?近代以前の君主にとってはお馴染みのやり方である。事実上、暫定当局とは、君主だけに仕える総督により運営された個人的な領土だったのだ。通常政府が統治する範囲外の存在だったので、総督は業務遂行能力に欠けた政治的忠義者だけを自由に雇うことができ、付き合いのある請負業者だけに100ドル札の詰まった現金袋を気前良く配布していたのである

税金取立て請負人、傭兵、そして総督達。ブッシュ政権が現代の超大国をまるで16世紀の君主国のように運営したがる理由は何か?諸悪の根源が行政にあるという非難に政治生命を費やす人たちには、優れた統治という考えが理解できないのかもしれない。もしくは政治的皮肉なのか。なにしろ民営化によって、説明責任を回避する好機と、莫大な利益供給源の両方がもたらされたのだ。

しかしその犠牲は甚大である。政府を機能させる方法に関する数世紀分の教訓を、現政権は無視してきた。恐怖を売り物にする以外、全ての政策に失敗しているのも当然といえよう。
(以上)


訳注:死亡した傭兵はスコット・ヘルベンストン、ジャーコ・ゾフコ、マイク・ティーグ、ウェス・バタロナの4人。4人の遺族は従業員の安全確保を怠ったとしてブラックウォーターUSA社を相手に訴訟を起こし現在も係争中である。尚、CIAのビン・ラディン追跡・テロ対策部門責任者を務めたコーファー・ブラック氏は、2004年11月に退任後、ブラックウォーターUSA社に副会長として天下りしている。)


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08/15/2006

クルーグマン:「恐怖への期待」

経済学者ポール・クルーグマンのニューヨークタイムズ紙2006年8月14日付掲載コラムを以下に全文翻訳。(文中リンク・脚注は訳者による)

恐怖への期待(Hoping for Fear)

by ポール・クルーグマン:ニューヨークタイムズ紙2006年8月14日付コラム


9/11同時多発テロ事件から二日後、議会の職員の話から、共和党議員達がすでに悲劇に乗じて企業と富裕層向け減税法案を推進させるつもりでいることを知った。次の日、私はそのことをコラムで「星条旗に身を包み、党派的な議題を執拗に追求する政治家達は真の愛国者ではない。」と警告した。

読者からの反応は凄まじいものだった-政治家達への憤怒ではなく、政治家への怒りを示唆した私に対する憤怒である。「幼い息子にどう説明すればいいのか?」そういう記者もいた。

今頃、あの記者は息子に何と説明していることだろうか。

今では、ブッシュ政権と議会の仲間達は、テロの脅威を、対処すべき問題としてではなく利用すべき政治的機会と早い時期から捉えていたことは誰の目にも明らかだ。最新のテロ計画の発覚は、ブッシュ政権のテロに対する無責任さと皮肉さをより鮮明にしている。

無責任:実際にテロの脅威から米国本土を防衛する場合、ブッシュ政権は常に予算を渋っている。テロ対策専門家達が液状爆発物の危険性について随分前から認知していた件は今や誰でも知っているが、ブッシュ政権は現在に至るもその脅威に全く対処しておらず、その脅威から国民を護る代わりに資金を他に流用させている。AP通信によれば、「英国でテロ計画が進行する頃、ブッシュ政権は密かに新型爆発物の探知技術開発に割り当てた予算600万ドルを却下しようとしていた。」

皮肉:共和党員はいつも政敵がテロに対して弱腰であると主張している。2002年のテレビCMで、ジョージア州のマックス・クリーランド上院議員(民主党)に対してオサマ・ビン・ラディンとサダム・フセインの写真を並べて表示していた件はご存知だろう。訳注1現在では、ディック・チェイニーがコネチカット州民主党予備選挙の投票者は「アルカイダの類に」支援と慰問を与えたと仄めかす発言をしている。彼等のいつものやり方だ。訳注2

さらに無責任でたぶんもっと皮肉な事:NBCの報道によれば、最新のテロ計画捜査で、英国側と米国側では逮捕の時期を巡って論争があったという。まだ容疑者が実行の準備もしていない段階で-容疑者は航空チケットを入手しておらず、一部の容疑者はパスポートも取得していない-英国側捜査陣は証拠集めのためにさらなる監視を求めていた。しかしNBCの報道によると、アメリカ側は早い時期での逮捕を要求したのだ。

嘘つき大統領のデタラメ経済

嘘つき大統領のデタラメ経済

嘘つき大統領のアブない最終目標

嘘つき大統領のアブない最終目標

Without Precedent

「事件の調査は当初から失敗へ向かっていた」・・911テロ政府調査委員会の内幕を委員長自ら暴露した問題作『Without Precedent: The Inside Story of the 9/11 Commission

ブッシュ政権が政治的動機により逮捕を急いだという疑惑については、2年前の記憶を呼び起こせばより鮮明になる。民主党全国大会の直後に国土安全保障省がテロ警報を発令したことで、世間の注目をジョン・ケリーから逸らした結果、パキスタン諜報部関係者の証言によれば、アル・カイダ内部に潜入したスパイの正体が暴露されてしまった。

しかし、最新のテロ警報のタイミングについて疑惑があろうがなかろうが、ブッシュ政権の恐怖戦術がうまくいくかどうかは疑問だ。最新の世論調査で判明したことといえば、共和党は少なくとも下院で多数派の立場を失う恐れがあり、ニューズウィーク誌の最新世論調査によれば、「テロ対策と国土防衛以外の全ての政策課題で民主党が勝っている。」テロで追い上げるという土壇場の努力は、果たして選挙の惨事を回避できるだろうか?

多くの政治アナリストはそうなると思っている。しかしテロ対策に関してすら、最新の報道でも、共和党の得た強みは僅かである。そして、民主党側は随分前にやるべきだった事をようやく実行に移している。テロ脅威を利用して党派的利益を目指すブッシュ政権の姿勢を批判しているのだ。

土曜日のラジオ演説で、ブッシュ大統領が自身を擁護せざるを得ないと感じた事も特筆すべきだが、大統領の基本的な自己防御-「我が国が直面する危機に対し意見の不一致があってはならない」という主張も、非常に弱々しくなってきた。

なによりもまず、911テロ以降に国民が託した信頼をブッシュ氏が乱用することの限界を、今では多くのアメリカ国民が理解している。すでに2004年から多くの人がそうだったように、大統領が国民の安全に関して信頼に足る人物でないことをアメリカ人は知っている。ハリケーン・カトリーナに対する惨めな対応やイラクでの大災難から学んだのだ。

ブッシュ氏と彼の政党が今できることは、反対派を悪魔と見なすことくらいである。私の推測では、国民はそれに従わないだろう。アメリカ国民は、恐怖以外に何も期待できない指導者にウンザリしているのだ。
(以上)

訳注1:ベトナム退役軍人で民主党の有力議員だったマックス・クリーランドは、911テロ後からブッシュ政権がテロ対策の名を借りて権力を乱用していると批判。すると2002年議会選挙で、共和党側は現職のクリーランドをテロ支援者とみなすテレビCMを大量配信する中傷キャンペーンを展開。その結果、クリーランドは共和党の候補者に敗れた。)その後もブッシュ批判を止めないクリーランドは右翼タレントから根拠のない中傷を受けている。)

訳注2その後の報道で、共和党側は英国内でテロ計画暴露が近日中にあることを捜査関係者を通じて予め密かに知っており、民主党がテロ対策に弱腰であると逮捕発表直前にメディアで中傷するという入念なメディアキャンペーンを展開していたことが判明した。)

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07/30/2006

クルーグマン:「誤りによる統治」

経済学者ポール・クルーグマンのニューヨークタイムズ紙2006年7月28日付コラムを以下に全文翻訳して掲載。

「誤りによる統治」(Reign of Error)

by ポール・クルーグマン:ニューヨークタイムズ紙2006年7月28日付コラム

現在世界で進行中の過ちの中で、これほどがっかりさせられるニュースはない。先日、ハリス・ポールが発表した最新世論調査によれば、アメリカ国民の50%が、米軍侵攻時にイラクには大量破壊兵器があったと信じており、2005年2月の36%から上昇しているというのだ。しかも、米国民の64%が、サダム・フセインはアル・カイダと深い関係にあったと未だに信じているという。訳注1

見方を変えれば、これは驚くべきことではないかもしれない。アメリカを動かしている人々は、もはや都合の悪い真実を決して受け入れようとはしない。彼等の気に入らない事実が充分に立証されてからも、たとえホワイトウォーター疑惑でクリントン側に違法性がなく、イラクには大量破壊兵器がなかったとわかっても、現政権を支援し、これらの事実を記憶から抹消しようと試みるプロパガンダ・キャンペーンは未だに進行中なのである。

しかし、そうしたキャンペーンが現在でも有効であると実感すると、愕然としてしまう。

キャンペーンの仕組みを以下に示そう。

まず最初に、ある問題に関して現政権の立場を損なう事実がある場合-幹細胞研究、地球温暖化、減税、所得の不平等、イラクなどの問題である-政権側は事実認知を拒否するのである。

時には、政権側は端的にウソをつく。「この減税案は税制をより先進的にして、所得の不平等を減少させるのです。」数ヶ月前に、大統領経済諮問委員会のエドワード・ラゼア委員長はそう宣言した。しかしさらに頻繁に、政権側はペテンや策謀を図っている。

例えば、数ヶ月前、ブッシュ政権が常にイラク戦争と911テロを結びつけようとする理由を説明するよう詰め寄られた際の、コンドリーザ・ライスの対応について考えてみてほしい。「我々の知る限りでは、(サダムは)911テロを指揮しておらず、911テロについて察知すらしていなかったかもしれません」彼女はそう認めた。(彼女の言葉に注意してほしい。文字通り解釈すると事実だが、それにも関わらずサダムが911テロを指揮し、ひょっとしたら911テロについて知っていた可能性も仄めかしている)「しかし、」彼女は言葉をつけ加えた。「それは911テロの原因を極めて狭義に定義しているにすぎません。」

一方で、メディア装置は虚報を垂れ流す。大勢のアメリカ人がニュースを知るためにフォックスニュースを観てラッシュ・リンボーのラジオを聴いているという世界は簡単には想像できないが、私への抗議メールからその実態をつかむことはできそうだ。

私にメールを送ってくれる人々の多くは、我が国の現在の経済状態がビル・クリントン時代よりも良くなっており、新たに公開された書類にはサダムがオサマと共謀した事実が示され、1980年代の朽ちた軍需用化学備品が、イラクに大量破壊兵器があったと現政権が言ったとおりの事実を立証したという世界に生きている。(サダムが大量破壊兵器を所持していたと信じる国民が復活した理由の一部は、軍需品の発見が誇大に宣伝されたのが原因かもしれない)訳注2

そうした人々の中には、大半が右翼ブログで宣伝されている類の主張を持ち出し、ブッシュ政権がカトリーナ大災害以降『すごい仕事をしている(did a heck of a job)』とまで言っている。

それでは、共和党全国委員会の事実上の支店となっている情報源以外からニュースを入手している人たちの認識はどうか。

911テロ後数年間続いていたような、政権側を困らせるような事実を報道することにきわめて慎重になっていたメディア脅迫の雰囲気は、今では和らいでいる。しかし、脅迫が完全になくなったわけではない。ほんの数ヶ月前、メディア各社は、イラクの『良いニュース』を報道できていないという右派の激しい攻撃にさらされていた。私の感触では、大虐殺の拡大について議論の余地がなくなるまで、そうした攻撃により一時的に報道がソフトになったと思う。そして、ウソと事実が同じ序列にされる噂中心の報道協定は、現在でも政権寄りの状態が続いている。

理由がどうであれ、ブッシュ政権が歴史の書き換えに著しい成功を収めているのは事実である。例えば、合衆国がイラクに侵攻した理由は、サダムが国連の査察を受け入れなかったからだとブッシュ氏は繰り返し示唆している。同様の主張を、ブッシュは数週間前にも行った。大統領はそれでうまく逃げ切っている。もしも、事実はそれと全く違うと大手報道機関が指摘しているとしたら、私はそれを見逃していることになる。訳注3

確かに、全てはオーウェル風だ。しかし、「指導者が、あるいは一部の支配的な小集団が、未来だけでなく過去すら管理する悪夢の世界」とオーウェルが書いた時、彼が想定したのは全体主義国家であった。報道の自由がある民主主義国家において歴史の修正がいとも簡単であると証明されようとは、誰が想像できただろう?
(以上)


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07/24/2006