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08/11/2006

亀裂、対立、確執:ブッシュ政権の内部紛争

ワシントン周辺で「親密すぎる」と邪推されるブッシュ大統領とライス国務長官が、波乱の時期を迎えている。イスラエルのレバノン侵攻をめぐる対応を通して、ブッシュ政権内部の紛争を伝える報道が相次いでいるのだ。

まずは、オンラインニュースサイト・サロンドットコムに掲載されたスクープから以下に一部を引用(強調は訳者による、以下同様)

ネオコンの次の戦争


NSAの諜報をイスラエルに密かに提供し、コンディ・ライスを攻撃することで、ブッシュ政権内部の強硬派は中東紛争を止めるどころか、イランとシリアに拡大させようとしている。


by シドニー・ブルメンサール:サロンドットコム2006年8月3日付記事

米国家安全保障局は、イスラエル北部に大量のミサイルを発射するヒズボラへシリアとイランが新しい兵器を支給しているかどうか監視するために、イスラエル側に通信諜報を提供していると、同作戦を直接知る立場にあるNSA職員は言った。ブッシュ大統領はこの秘密作戦を承認しているという。

政権内部では、ディック・チェイニーの国防関連補佐をするネオコン達や、国家安全保障理事会上級理事を務めるネオコンの1人、エリオット・エイブラムスが、NSAのイスラエル支援作戦を指揮する主役達で、彼等はシリアとイランの武器供給活動により、イスラエルが両国を爆撃する口実となりうると考えている、と同作戦の内情を知る関係者達は言っている。(過去にも様々な政府諜報が、NSAが収集した諜報も含めて、様々な目的でイスラエルに提供されてきた。)ネオコン集団は、NSAの諜報能力を利用してイスラエルとヒズボラ、ハマスの闘争を(シリア、イランを加えた)4つ巴の戦争に拡大出来る可能性に熱狂しているといわれている。

国務長官コンドリーザ・ライスは当該事情について「簡単な説明を受け」、「関係者」に名を連ねるが、ネオコン集団の秘密のシナリオを進める上で主要な役割を果たしていない。彼女への「説明」とは、国務長官を威圧し隅に押しやるための政権内部の紛争という側面があるようだ。最近、イランの核兵器開発を抑止する外交努力に反対する著名なネオコン達から、ライス長官は攻撃されている。
(以下略)


このところ大忙しのNSAは、相変わらず職員のリーク防止まで手がまわらない様子だ。(NSA関連を得意とするジャーナリスト、ジェイムズ・バムフォードも最近は続々と雑誌にスクープ記事を書いている。)

それはさておき、911テロ調査委員会でさんざん叩かれた後に異例の出世を遂げたコンドリーザ・ライスは、華々しいキャリアの正念場を迎えているらしい。ニューヨークタイムズ紙の最新記事が事情をうまく伝えているので以下に引用する:

『交渉人』

ライス国務長官の足元から生じる中東の障害

by ヘレーン・クーパー記者:ニューヨークタイムズ紙2006年8月10日付記事

ワシントン、8月9日-ヒズボラとイスラエルの戦闘が開始された先月、ロシア・バルト海沿岸の客室で、米国務長官コンドリーザ・ライスは次々展開する危機に対するアメリカ合衆国川の対応策の草案作成に夜を徹して取り組んでいた。

G8会議を控えて、その夜に彼女が練り上げた戦略は、伝統的で華やかな外交の手間を省いたものだった。即時停戦要求はせず、イスラエルには正当防衛の権利があると明確に述べるというものだ。

そのやり方は、翌朝ブッシュ大統領によって了承され、現在の中東危機に対するアメリカの基本的戦略としての役割を果たしているが、政治的青写真以上のものだった。政権内部の或る高官の話によれば、ライスは「ディック・チェイニー副大統領のような、イスラエルに対するアメリカの強力な支援を推進する政権内の保守派を満足させるために、通常の国務省の対応とはかなり異なる立場をとった。」

ここ4週間ほど中東危機で奮闘中のライス長官は、海外で仲裁人になろうと努力するだけでなく、自らの政権内の対立の中でもまとめ役になろうとしている。

ワシントン側の、即時停戦に対する抵抗とイスラエルへの支援を頑強に主張する勢力が、ライス長官が他国と連携することを妨げている。一部のアメリカ同盟国は、武力衝突を止めさせ、持続的な停戦を実現するための打開策を探っている。

先日の中東訪問では、ライス長官は現在の紛争に対して非常に異なる姿勢を持つ二人の人物を同行させた。1人は、国家安全保障理事会上級理事を務めるエリオット・エイブラムス、もう1人は、経験豊かな外交官で前エジプト米大使を務め現在は中近東担当国務次官補の職にあるC.デビッド・ウェルチである。

ウェルチ補佐官は、伝統的な国務省の姿勢を代表し、合衆国は中東問題で中立的に行動すべきと考える。エイブラムス氏は、チェイニーと強く結びついている新保守主義者(ネオコン)の1人で、ブッシュ政権にイスラエルへの支援を促している。ライス長官の訪問中、エイブラムス氏はチェイニー氏のオフィスへの直接連絡を絶やさなかった。

政権内部の或る高官の話によれば、エルサレムの古い街を見渡せるデヴィット・シタデル・ホテルの中の、ライス長官の宿泊するラビン・スイートで7月29日に行われた会議も含め、ウェルチ氏とエイブラムス氏は対立しており、ウェルチ氏がアラブ側の視点を披露すると、エイブラムス氏はイスラエル側の姿勢をはっきり示したという。

ライス長官がエイブラムス氏を国家安全保障理事会職員に選んだのは2002年で、当時彼女はまだ国家安全保障会議担当大統領補佐官だった。エイブラムス氏の公職復帰は意外だった。1980年代のイラン・コントラ事件でエイブラムス氏が果たした役割に対して、1992年にジョージ・H・W・ブッシュ大統領が恩赦を与えると、エイブラムス氏は二度と政治に関わる仕事はしないと言っていた。

国務省高官の話では、エイブラムス氏は、ライス長官と彼女の政策に批判的な新保守主義者達との間で緩衝役を果たしているという。「エリオット・エイブラムスの才能は、彼がエリオット・エイブラムスであるということですね」或る高官が言った。「イスラエルを充分に支援していないと彼が批判されるようなことがあるんでしょうか?」

国務省関係者の幾人かは、個人的にブッシュ政権のイスラエルより姿勢に反旗を唱え、ワシントンは危機の解決を試みようとせず、シリアと話し合うつもりがないと言っている。シリア政府は長年ヒズボラを支援しており、前回の紛争時には、イスラエルはシリアとの往復外交により事態を解決している。

2週間前、ライス長官は在ダマスカス米大使館のスティーブン・A・サシェ代理公使に、シリア外相ワリド・アル・モアレムとのダマスカスでの会談を指示した。二人は会見したが、上級高官の話では、モラレム外相は「穏やかに前向きな姿勢を示すことはなかった」らしく、それ以来交渉は行われていない。

中東地域と政権内部の緊張状態にウンザリした様子のライス長官は、いつになく個人的な、感情的な表現をすることがある。スイートでの会談の後、ライス長官、エイブラムス氏、ウェルチ氏、在イスラエル米大使リチャード・ジョーンズ氏は、イスラエルのエフード・オルメルト首相を囲んで夕食を取った。そこで、ライス長官は珍しく短気さの一端を見せた。アメリカ側の二人の高官の話によれば、48時間の空爆停止をライス長官が要求したことに対し、オルメルト首相が、レバノン住民に避難するよう警告したと応えると、ライス長官は首を振って否定したという。

「いいですか、我が国は(ハリケーン)カトリーナで同じことを経験してるんですよ。私達も正しいと思ってたんです」彼女は言った。「でも、避難したい人たちの多くは避難することができないと思い知ったんです。」

ライス長官はハリケーン・カトリーナに関して政府側の対応に直接関与していないが、昨年夏に彼女が同僚に語ったところでは、ライス長官は政府側の遅い対応に怒り、洪水に沈んだ街で立ち往生している住民の困難を軽減するようにブッシュ大統領を説得したという。

ライス長官はイスラエルから爆撃の一時停止をとりつけたが、それはわずかな間だった。爆撃は抑制されたものの、イスラエルが空爆を再開したとき、長官の機はイスラエル領空をわずかに離れたばかりだった。

米保守派の一部は、イスラエルのレバノン侵攻作戦を終了させるためにイスラエルに圧力をかけようとしているとして、ライス長官を厳しく批判している。ワシントンタイムズ紙が発行する保守派雑誌インサイト・マガジンは7月25日付けのオンライン版記事で『コンディをクビにしろ:保守派外交筋は国務省がブッシュの政策をハイジャックしたと批判』という見出しを掲載した。
(以下略)


レバノン侵攻直後、ライス国務長官がイスラエル政府に停戦を促すと、オルメルト首相側は「引っ込んでろ!」と米国務長官を突っぱねたという噂もあったが、実際はもう少し穏やかだったのだろう。しかしイスラエル側が強気の態度を保つ最大の理由がブッシュ政権内のネオコン派の支援にあることは間違いない。

タイムズ紙の記事で引用されている保守派のインサイト・マガジン誌は、8月8日付記事でブッシュとコンディの亀裂について詳細に伝えている。以下に引用:

ブッシュとコンディ、イスラエルを巡り衝突:大統領が初めてライスを圧倒

インサイト・マガジン2006年8月8日付記事

ブッシュとコンディ

8月7日、テキサス州クロフォードで行われた大統領会見におけるブッシュとコンディ


米国務長官コンドリーザ・ライスは、ヒズボラとの戦争を継続するようにイスラエルを支援するブッシュ大統領に対して次第に失望するようになった。

国務省関係筋の話によれば、ライス長官はレバノンのヒズボラ拠点への攻撃を終わらせるようイスラエルへ圧力をかけようとして、何度も妨害されているという。イスラエルがレバノンの村落を爆撃し25人の住民を殺したことで、国務長官の先週の中東訪問は粉砕されたと関係筋は話している。

「彼女があんなに怒っているのを見たのは初めてです」或る補佐官は言う。

イスラエルとヒズボラの戦争に対する合衆国の対応を巡り、ブッシュ政権内でもブッシュ家内部でも意見は分裂している。同時に、ライスが国務長官に任命されて以来、初めてブッシュ大統領は彼女を退けるようになった。

「過去18ヶ月間、外交に関してはほとんどコンディに任せきりだった。」事情に詳しい政権高官は言う。「それが突然、大統領は別の意見を持ち、決定権を持とうとしている。」
(中略)
ライス長官はリチャード・ルガー上院外交委員長も含め同委員会の共和党議員達から支援を受けている。ブッシュ父やその側近達も、パレスティナとの外交解決に向けたイスラエルへの圧力に続いて、レバノンの件では即時停戦を求めている。

ライスの最大の支援者は、ブッシュ父の政権時代に国家安全保障会議担当大統領補佐官を務めたブレント・スコウクロフトである。関係者によれば、ライス長官の相談相手であるスコウクロフト氏は、イスラエルの戦争を合衆国が支援することで、中東の石油産出国、特にサウジアラビアとの関係を台無しにすることになると、議会やホワイトハウスの友人達に訴えているという。
(中略)
ブッシュの姿勢はディック・チェイニー副大統領やドナルド・ラムズフェルド国防長官、さらに国家安全保障担当補佐官スティーブン・ハドリーにより支援されている。彼等は大統領に、国際的圧力を撃退し、ヒズボラ、イランとシリアに対し戦略的なダメージを与えるための充分な時間をイスラエルに与えるよう求めている。
(中略)
関係者によれば、ブッシュはヒズボラ撃退に失敗しつつあるイスラエルに失望しているという。共和党幹部の一部は、イスラエルのレバノン進撃が遅れていることに仰天していると関係者は伝えている。

事情通は言う。「ブッシュのユダヤ人の友人の1人は、実際にイスラエル高官を電話で呼び出して、“一体何をやっているんだ”“戦うつもりがあるのか?”と怒鳴り始めました。」
(以上)

今年に入ってから、ブッシュ父は失態の続くラムズフェルド国防長官を密かに更迭しようと目論んでいたが、息子はその干渉を拒んだという。米軍上層部から国防長官更迭の要求が連続した際に「決定するのは私だ。何が最良かを決めるのは私。ドン・ラムズフェルドには政権に留まってもらうんだ。」と言ったのは、父親へのメッセージでもあるらしい。息子を溺愛するあまり、何でもお膳立てしようとするこの元大統領に、そろそろブッシュ・ジュニアも嫌気がさしたのだろう。そういえば大統領になる前、外交知識のない息子にコンドリーザ・ライスを紹介したのも父ブッシュだった。ブッシュ家の本拠であるコネチカット州で、ブッシュ政権擁護派として知られる民主党の重鎮議員ジョセフ・リーバマンが先日の予備選挙で新人の反戦派議員に敗北した件は、ブッシュ親子の確執をより一層深くするだろう。(リーバマンは結局無党派として上院議員選挙に出馬すると言っている。)

東部エリート出身の父ブッシュが家庭では東部訛りで話すのに対抗し、テキサス訛りで粗野に振舞うように常に心がけているといわれるブッシュ。空軍兵士として第二次大戦で戦闘に参加し(操縦していた爆撃機が父島上空で日本軍に撃墜され海中に沈んだが、生き残った)優秀な成績でイエール大学を卒業し、石油企業を一代で成功させた41代大統領の父ブッシュは、ブッシュ・ジュニアにとって永遠に超えられない壁だ。

ジョージ・W・ブッシュが父親よりも多くの戦争を開戦し、宗教に深く傾倒するのは、父親の闘った戦争を疑似体験し、父親より高位の存在-神に近づくことで自身の劣等感を克服しようとしているようにも見えるが、もちろんこれは筆者の単なる想像である。

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08/08/2006

イスラエルのレバノン侵攻における軍事広報戦略

Fiasco

ワシントンポスト紙ペンタゴン担当記者トム・リックスの話題の新著『Fiasco: The American Military Adventure in Iraq

The Best War Ever

プロパガンダ研究家ジョン・スタウバーとシェルダン・ランプトンの新刊『 The Best War Ever


米CNN放送で8月6日に放送されたニュース番組『CNN RELIABLE SOURCES』で、現在進行中のイスラエルによるレバノン侵攻軍事作戦について驚くべき談話が飛び出したので以下に引用する(強調は訳者):

ハワード・カーツ(CNN番組ホスト):
「本日ここワシントンのスタジオにはABCニュースのホワイトハウス詰め記者アン・コントンとワシントンポスト紙ペンタゴン担当記者で新刊書『Fiasco: The American Military Adventure in Iraq』の著者であるトーマス・リックスを迎えています。

トム・リックス、あなたはイラクを含めて軍事紛争をたくさん取材してらっしゃいますが、軍隊同士が互いに撃ち合っているような類の紛争ではない状況の中で、市民の犠牲者の増加がいよいよ大きな問題になりつつあるんでしょうか?」
トーマス・リックス記者:
「そのとおりだと思います。ただ、現在では、市民の犠牲者に関しては、両軍にとって戦場の一部になっていると思います。その一例を挙げますと、一部の米軍アナリスト達の話によれば、イスラエルはレバノンから発射されるヒズボラのロケットを意図的に放置していて、その理由としては、ロケットが発射されていればイスラエル側もレバノン侵攻に関する道徳上の均衡を保つことができるということです。」
カーツ:
「ちょっと待って下さい、イスラエル側が、基本的にはPR目的のために、イスラエル市民の犠牲が出ればPR戦争上有利になるという理由で、意図的にヒズボラ側の火力を維持させていると言うんですか?」
リックス:
「ええ、軍事アナリスト達はそう言ってました。」
カーツ:
「それは意外なことですね。自国の市民を殺させることが自国の利益に繋がるという発想が、誰も自国の市民が殺されるのを見たくはないが、この戦争への認識という観点では自国の利益に働くということですか。」
リックス:
「そのとおりです。道徳上の優位性という問題に関して役に立つんです。なにしろ、レバノン侵攻作戦では市民が同様に殺されていくでしょうからね。」(以下略)

hezbollah Bizcard

もちろんヒズボラ側にもプロパガンダ戦略はあるのだろう。しかしスピーゲル誌によればその活動はイスラエルほど専門性はないようだ。上の写真はヒズボラ広報担当者の名刺。(source


イスラエルがヒズボラのロケット攻撃を故意に放置してイスラエル市民の犠牲者増加を戦争プロパガンダに利用している?・・・この証言の真偽を確かめる術は今のところないが、確かに現在行われているイスラエルのレバノン爆撃は、ヒズボラ側のロケット攻撃を阻止するという点では的外れであるように見える。注1何よりもまず、現在進行中のイスラエルによるレバノン侵攻作戦が、10年前に米新保守派(ネオコン)活動家達がイスラエル首相に提案した「クリーン・ブレイク」戦略に沿ったものだとすれば、イスラエル政府側のヒズボラロケットへの一見無策に見える対応にも、また違った意味が感じ取れるのである。

注:例えば、イスラエルの爆撃により多数のレバノン市民が殺されたレバノン南部のカナ村には、ヒズボラのロケット発射拠点はなかったといわれている。ここをあえてイスラエルが爆撃した理由は、ヒズボラ及びアルカイダ側への挑発という意図があるかもしれない。オサマ・ビン・ラディンが米国本土攻撃を思い立ったのは、10年前の1996年、イスラエルがカナ村を空爆し多数のレバノン市民が虐殺された事件(イスラエル軍作戦コードネーム:怒りの葡萄作戦 "Operation Grapes of Wrath")がキッカケといわれている。ちなみに今回のカナ村空爆には例によって米国製のバンカーバスター爆弾が使用されている。)

8月7日の時点では、イスラエル市民の犠牲者数は36人、レバノン市民の犠牲者数は1,000人を超えたという。

イスラエルの軍事広報戦略については、すでに独スピーゲル誌が興味深い報道を伝えているので以下に翻訳して掲載しておこう。

中東広報戦争:大皿に盛られたニュース

by マシアス・ゲバウアー記者(イスラエル駐在):独スピーゲル誌2006年7月28日付

爆弾や兵隊と同じように、プロパガンダはあらゆる戦争につきものだ。それでも、外国人記者の扱いに関するイスラエル政府の専門性は注目に値する。記者が必要とするものは何でも揃えてくれる。しかも昼食付きだ。

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ボロボロになったヒズボラの旗を掲げ南レバノンに侵攻するイスラエル軍戦車部隊。(独スピーゲル誌

午前9時、電話が鳴った。キッチリ時間どおりだ。「ハロー、こちらは政府広報部(Government Press Office:GPO)です。」女の声が伝える。「本日は何をなさいますか?なにか予定がおありですか?」それから、次々に提案してくれる-インタビュー同行者、カチューシャロケットが着弾したハイファの住居までのツアー、被害者へのインタビュー付き。軍事専門家も同行し、ロケットの種類について解説してくれる。「お望みなら、放送用素材もありますよ。」

さらにサービスは続く。「見どころはこれからですよ。」イスラエル広報担当の女性は言う。「誘拐された兵士の両親達のインタビューをナハリヤで開催します」彼女の説明によると、7月12日からヒズボラ側に拘束されている兵士、エフード・ゴールドワッサーの両親達が、ホテルで待っているとのこと。通訳は?必要ない。「両親方は英語が上手なんです。ご心配なく。」

多くのジャーナリスト達がやって来るが、ほとんどは政府広報部の専用車付きだ。およそ15人の撮影隊が設備をセッティングする。20人ほどのラジオや新聞・雑誌記者が、コーヒーや特別に用意されたサンドウィッチを楽しむ。ほどなく両親の登場である。父親が照れくさそうにマイクに寄る。目前の机にはマイクロフォンが密集し、まるで政治家の記者会見のようだ。父親は少し汗をかいており、前頭部の血管が隆起している。

シュロモ・ゴールドワッサーはあまり話すことがないようだ-話が続くように、平凡なフレーズを警護官が両親に耳打ちしている。「彼等には・・・息子を誘拐した者たちにはエフードの安全に責任がある」ゴールドウォーター氏は言う。「彼等には、息子をすみやかに帰してもらいたい・・・無傷で。」父親は、他に記者に伝えることを思いつかないと言う。自分は父親で、政治家ではない、と彼は言った。


「笑顔を見せないで」

報道側の質問が爆発しカメラマンが叫びだすと、ゴールドワッサーはなんとか話を終えた。「ゴールドワッサーさん、こちらへどうぞ」カメラマンの1人が言う。「どうか笑顔を見せないでください。」兵士の子供時代の話を知りたがる者もいる-「視聴者の心の琴線に触れるでしょうからね。」あちこちで、母親が家族のアルバムを繰り返し広げた。カメラマンからの注文に応じる母親の姿はロボットのようで、もしも要求があれば泣いてみせることもできたかもしれない。幸運にもそんな要求はなかったが。

不名誉な見世物は90分あまりも続いた。両親は、政治にも戦争にも無関係であると言った。彼等は、公的な場で姿を見せることで息子を救えると教えられていた。全ては外国人記者向けにイスラエル政府広報部によって組織され、演出されている。両親や市民達の苦悩が、現在の戦争の理由のひとつとしてもっと注目されるためにである。しかし両親は、この物語においては、せいぜいエキストラとして登場するに過ぎない。

プロパガンダは、特に国家がその武力行使の決定について正当化され、正しいと世界に見て欲しい時には、戦争の一部となる。湾岸戦争への経緯やアフガニスタンで現在行われている戦争でも、あるいはもっと不誠実な例では、米国の2度目の対イラク戦争も、事情は同じである。広報担当職員で構成された巨大な部隊が、紛争の立役者に対するメディアや大衆からの支持獲得をめざして、感情を盛り上げるイメージを作り上げる。それらは標準的な手順なのだ-戦争のための広報活動である。

もちろん、全ての情報がそのような管理された状況で流布されているとは信ずるべきではない。しかし、ヒズボラのロケットによる犠牲者-民兵との戦闘が始まってから現在までに17人が殺されている-そうした犠牲者をメディアで見せたいというイスラエルを批判することは難しい。実際に、そうした犠牲者達は、まさしく現在レバノン南部で荒れ狂うイスラエルの軍事作戦を煽っている。


野を駆けるPR戦士

それでも、イスラエル政府の行う外国人記者への支援と管理は、紛れもなく過剰のようだ。政府広報部から記者証明書を受け取るとすぐに、電子メールと電話の嵐にさらされる。他の紛争地帯を取材する際には、ドイツ人記者達はいつも極めて懇切丁寧に振舞うよう努力しながら、取材相手を見つけ出し自分で連絡先を手配しなければならない。ところがイスラエルでは、記者たちは全て込みのパッケージ旅行に出かけることになる-サービスもとても良い。

綿密に練られた取材案は移動手段、昼食、厳選された軍事専門家付きで、これら全てが記者側の要求を待つまでもなく提示される。多くの記者たちは政府側の提案を快く引き受ける。何日間も、イスラエルの砲兵部隊の映像が世界中のテレビ画面を占領しているが、もちろんその理由のひとつは、PR戦士が常に撮影部隊を連れて日暮れ時に最前線を駆け巡っている事情による。ソフトで、暖かな夕暮れの日差しはカメラマンや写真家の好むところなのだ。

水曜に届いた電子メールはその好例だ。それには11件のニュースが提案されている。イスラエル側の難民?いいだろう。それとも、アラブ系イスラエル人の苦悩は?イスラエルの或る村が離散した事情の件は?自宅を放棄することになった市民の話は?元人質の話は?それとも、10年間攻撃されている村の話?全て手配済みだ。

どこかへ出かける必要もない。「取材相手には電話で連絡できます」広報部の女性は言う。「ラジオ向け報道ならそのほうが良いでしょう。」担当者達は、記者たちの求めるものを正確に知っている。ラジオやテレビのジャーナリストは頻繁に放送に出演する必要があり、滅多にホテルを出る機会がない。そんな折、カチューシャロケットが着弾すると、電子メールで目撃者リストが送られてきて、目撃者達の携帯電話番号まで含まれているのだから、記者には大歓迎となる。

言葉の障壁も積極的に解決されている。その目撃者リストには使用言語情報も含まれているのだ。イスラエルのような移民国家では、選択可能な言語は多様だ:英語、フランス語、スペイン語、ロシア語、もちろんドイツ語を話す人も街ごとに居る。困難な同時通訳も、政府広報部が過剰なほど手配してくれる。

しかしイスラエル政府の広報専門家達は、そろそろ仕事に行き詰っている。レバノン南部の国連出先機関を爆撃してから、世論は反イスラエルに転じており、同国の行き過ぎた武力行使が再び大きな問題になっている。そして、この戦争は今にも終わりを迎えるようにはとてもみえないのである。
(以上)

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07/19/2006

ラリー・ジョンソン:「イスラエルの愚かな選択」

元CIAテロ対策アナリストで、現在はセキュリティコンサルティング企業BERG Associates社CEOとして報道番組等で活躍中のテロ専門家ラリー・ジョンソン氏のブログ『NO QUARTER』から、イスラエルのレバノン攻撃に関する7月15日付記事を以下に全文翻訳して掲載。

(参考)イスラエルとヒズボラの戦闘、及びイスラエル軍によるレバノン侵攻までの経過

ワシントンポスト紙の報道から抜粋)

6月25日、イスラエルのガザ地区撤退以来初めて、パレスティナの武装兵士達がガザ地区からイスラエル側を急襲し、イスラエル兵2人を殺害、19歳の兵士1人が拉致された。拉致された兵士の救出のため、イスラエル軍はただちに戦車とブルドーザーでガザ地区へ侵攻し、空軍によるガザ地区への空爆も開始された。

7月3日、イスラム原理主義組織ハマスの発射したロケットがイスラエルの都市アシュケロンに着弾し、紛争は激化。7月12日にはイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラがイスラエル・シュローミ市街のイスラエル軍施設に向けてカチューシャロケットを発射し、さらにイスラエル国境沿いの街シュトゥラではヒズボラ武装兵士達がイスラエル軍兵士の車列を待ち伏せ攻撃し、イスラエル兵士の内二人が死亡、二人が負傷し、さらに二人がヒズボラ側に拉致された。

イスラエルはヒズボラの行為を戦争と見なしただちに反撃を開始、レバノン南部の市街地にある道路、発電所等を爆撃で破壊した。イスラエル側はヒズボラの武装解除と人質となったイスラエル兵士の解放を要求、ヒズボラ側はイスラエル側に拘束されている政治犯の釈放が人質解放の交換条件と主張した。

イスラエル側はその後もガザ地区への空爆を激化させ、一般市民の犠牲者が増加している。さらにイスラエル海軍はレバノン沿岸を海上封鎖し、レバノン・ベイルート国際空港や道路・橋等を爆撃し破壊。ヒズボラ側もイスラエル北部へのロケット攻撃を行い、イスラエル側は二人の犠牲者を出した。現在もイスラエル軍によるレバノン、ガザ地区への攻撃は継続中で、ヒズボラ側は全面戦争を宣言し、イスラエルのオルメルト首相も戦闘継続を宣言しており、戦争が長期化する懸念も出ている。レバノンでは在住外国人の国外脱出が始まり、レバノン市民の避難民はすでに40万人に達している。

イスラエルの攻撃を支持し、国連安全保障理事会での議長声明による停戦呼びかけに反対したアメリカ政府は、ヒズボラを密かに支援しているとされるイランとシリアへ非難の姿勢を強めており、中東全面戦争の危険性はいよいよ高まっている。

イスラエルの愚かな選択(Israel Takes a Stupid Pill)

by ラリー・ジョンソン:ブログ『NO QUARTER』2006年7月15日付記事

中東においてアメリカを自己犠牲的行動に駆り立てるだけで満足できなかったイスラエルは、レバノン侵攻によって自らに火をつける決定をした。ジョージ・ブッシュ同様、イスラエル首相のエフード・オルメルトは戦闘経験がない上に、物事を考えずに軍事行動に走った。実際、オルメルト首相は軍隊経験もないようだ。私がこれを問題と思うのは、現在進行中の軍事作戦について、イスラエルは或る簡単な疑問-戦略的軍事目標の設定について回答できないからである。オルメルトはイスラエル軍が戦略を無視し、急場しのぎで考えるように何とか説得しているが、その進行具合はいよいよ愚かしくなっている。今後数週間に発生する出来事で、テロリストを殺せば国家が安全になるという迷信の虚偽性が明らかにされるだろう。それは無理な話なのだ。

『テロリスト』を殺害することは政治的には意味があるが、戦略的軍事目標にはならない。それは急場しのぎのやり方で政治目標には沿うかもしれないが、イスラエルを安全にするという条件にはほとんど貢献しないのだ。イスラエルは現在、まるで酔った水兵が酒場でケンカしているみたいに、レバノン各地を攻撃している。武器を振り回し、深刻な手傷を負いながら、罪なき見物人を殴り、全体としては事態を悪化させている。これはもはや、あのエンテベの見事な闘いを成し遂げた頃のイスラエル軍ではない。

ハマスとヒズボラはどうだろうか?

連中はテロリストではない。テロ攻撃を実行しているが、テロリストとはいえないのだ。むしろ、彼等はそれよりはるかに危険だ。テロ行為を行う彼等は政治、社会、宗教、軍事組織として完全に機能しており、アルカイダやバスクのテロ組織よりもはるかに厄介な存在である。軍事行動を支える資源と人材に恵まれ、我慢強く作戦遂行でき、簡単には敗北しない。1973年のエジプトとシリアの軍隊とは違い、ハマスとヒズボラは簡単には屈服も敗走もせず、7日間戦争のような具合にはいかないだろう。イスラエル軍の作戦担当者がそうした見方をしているとしたら、馬鹿げた妄想だ。

アメリカ合衆国のほとんどの人々は、哀れな小国イスラエルがその存亡を賭けて、巨大で凶悪なイスラム国家と戦っているというハリウッド流のストーリーを黙従しているが、テレビ画面から伝わる現実は別の物語を示している。ポール・ニューマン主演の『栄光への脱出』は古代の歴史に過ぎない。ハマスとヒズボラは軍事目標を攻撃した-偵察中の兵士を拉致するという事実は戦争行為であり挑発的だが、しかしテロリズムではない。(もちろん、ヒズボラとハマスは過去にイスラエル市民に対してテロ攻撃を行ってきた。私はそうした事実を無視するつもりはなく、糾弾しているが、ここでは現在進行するダイナミズムを理解してほしい)イスラエルは兵士を撃った個人に攻撃しているのではない。イスラエルは大衆の懲罰に打って出たのだ。

イスラエルはどのように対応したか?彼等は市街地と民間施設を爆撃し、多くの一般市民を殺害している。自分にこのような権利が許されたらどうなるか考えてみよう。アラブ人『テロリスト』は軍事目標を攻撃し、少なくとも一台の戦車を破壊したので、テロリストと認定される。イスラエルはその復讐に、陸・海・空軍の戦力で市街地を攻撃し、それを正当防衛だとしている。もしもこの論理の偽善性に気づかないとしたら、我々はすでにプロパガンダと感情に深く蝕まれており、イスラエルやヒズボラ、ハマス同様、冷静に考えることができなくなっている。頭に浮かぶのは、部族主義と復讐心だけなのだ。

一方でイランは、有利な立場にいる。彼等は良く訓練され高度に競争力のある代理戦力をヒズボラ内に有している。金曜日(14日)に成功させたイスラエル海軍船舶への攻撃は、RPGを抱えたサンダル履きのイカれた連中とヒズボラとの違いを見せ付けている。イラン軍部の戦略アドバイザーが少なくとも1人、イスラエル船舶に向けたヒズボラのミサイル発射を手伝ったという説に私は喜んで賭けよう。しかし、イランは単純な報復活動以上の事を計画している。彼等は戦略的に思考するのだ。

イラクとレバノンで進行中の出来事は、テヘランの思い通りである。世界中のメディアから、アメリカ合衆国は市民攻撃を容認し実行している連中として提示されている。そうした認識は現実となり、合衆国がロシア、中国、さらにはフランスにまで支援を求めることは一層困難となった。北朝鮮とイランによる核の拡散に効果的に対処するには、国際的協力が必要である。それが今、世界の怒りからイスラエルを守るという試みのために、アメリカは身動きがとれなくなっている。

過去には、合衆国はイスラエル側とイスラム側の両者から充分に信頼され、両者間で起こる流血の惨事から距離を置いて、巨大な戦争へとエスカレートする前に介入し防止することができた。ブッシュ政権には、そうした介入と情勢の沈静化を目指す者は誰一人いないようだ。なにしろ、ジョン・ボルトンとエリオット・エイブラムスがこの件を主導しているのだから、我が国はイスラエル側ということになる。

映画『レッド・オクトーバーを追え!』で米海軍提督を演じたのは前上院議員フレッド・トンプソンだった。祖国を裏切った潜水艦の追跡を巡ってアメリカ合衆国とソ連の緊張が高まる中、彼は言った:

「この商売はやがて手に負えないものになる。生き残ることができたらラッキーだ。」

この言葉は現在の我々に重くのしかかっている。そのような事態が発生しないように祈ろう。
(以上)

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