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01/12/2008

米マクラッチー紙報道:「北朝鮮のドル紙幣偽造」はガセネタ?!


まさか、そんなことがあるのだろうか??

米国の有力新聞マクラッチー紙が、2008年1月10日付紙面で大変なことを報道している。曰く、米国政府側が主張する「北朝鮮政府が米ドル紙幣を偽造している」という疑惑の情報源はかなり怪しく、噂の超精巧偽札「スーパーノート」は、実際のところ“ホンモノ”じゃないかというのである。同紙はこの報道で、大量の関連記事、資料を掲載して、疑惑を検証している。

マクラッチー紙といえば、例えばイランの核兵器開発疑惑について、米政府の国家諜報評価がそれを否定する1ヶ月前に、「ブッシュ政権の唱えるイラン核兵器開発の根拠は政府内でも疑問視されている」という暴露記事を、政府内部の諜報関係者の証言を元にサラリと報道してみせるなど、米国大手報道企業としては、特に外交政策分野で突っ込んだ報道姿勢を貫いているメディアとして知られている。特に同紙イラク支局はその正確さにおいて評価が高く、同支局女性取材チームは2007年度国際女性メディア基金の『勇気ある報道』賞を受賞している

問題となっているマクラッチー紙の1月10日付け記事:『U.S. counterfeiting charges against N. Korea based on shaky evidence(米国の対北朝鮮紙幣偽造嫌疑は曖昧な証拠に基づく)』を翻訳すると、以下のような感じである:


2年前、北朝鮮の独裁政権を徐々に孤立化させ、経済的にも追い込むために、ブッシュ大統領は北朝鮮政府がニセ米国ドル札を製造しているとして批判した。

「我が国の紙幣を偽造する者がいるならば、止めていただきたい。北朝鮮に対して我が国は積極的にそう伝える。我が国の紙幣を偽造するなと。」2006年1月26日、ブッシュはそう宣言した。

しかしながら、マクラッチー紙の10ヶ月に及ぶ3大陸を跨いだ調査で判明したところでは、ブッシュ氏の主張を裏付ける証拠とされるものは良く見積もっても曖昧であり、ニュース等で引用された北朝鮮からの亡命者の主張は疑わしく、おそらく偽証である。主要捜査機関であるスイス連邦犯罪警察は、北朝鮮の紙幣偽造技術を疑問視しており、偽造100ドル紙幣“スーパーノート”は、目に見えない一部の付加点を除き、ほとんど完全な紙幣であるとしている。

北朝鮮政府を巡る一連の紙幣偽造疑惑の情報源としてブッシュ政権が依存する情報源の多くは、米国他外国紙のために北朝鮮からの亡命者たちとのインタビューを手配した韓国在住の“北朝鮮専門家”達である。その報道は議会や調査関係者、ブッシュ政権幹部ら北朝鮮に圧力を加えようとする人々によって引用されてきた。

例えば、2006年7月23日付けニューヨークタイムズ・マガジン誌報道に引用された亡命者たちの説明によれば、北朝鮮が精巧な100ドル札“スーパーノート”を製造しているとされていた。

しかし、マクラッチー紙の調査によれば、そうした情報源を疑うに足る事情が明らかになった。いくつかの報道で引用された情報源の1人、自称化学者のキム・ドン・シクは、消息が不明となり、以前ルームメイトだったムーン・クーク・ハンの話では、キムはお金のために嘘を言っており、米国紙幣についての知識も乏しく、100ドル紙幣に印刷された人物の名前(ベンジャミン・フランクリン)さえ知らなかったという。

シークレット・サービス、米連邦準備制度理事会、米財務省はこの件に関するインタビューを辞退している。

米国政府の主張が国際社会で最初に考査されたのは2006年7月で、ブッシュ政権の要求によって、国際警察機構インターポールは中央銀行関係者、警察機関、紙幣産業関係者等を召集し、米国政府の北朝鮮政府に対する疑惑が説明された。

フランスのリヨンで開催されたその会議は、アメリカ政府の要求によって2005年3月にインターポールが公布したオレンジ警告に続くものだった。オレンジ警告とは、関係各国に紙幣製造機器や紙、インクを北朝鮮へ販売することを禁止させる呼びかけである。

しかし、60人以上の専門家を召集しながら、紙幣偽造取締を担当する米国の主要捜査機関であるシークレットサービス側は、証拠資料の詳細について提出しなかった。その代わりに持ち出したのは“諜報”で、召集された関係者に対してはブッシュ政権側の主張を信用してほしいと言うのみだった。

「笑ってたのか眠ってたのか憶えてないね」その会議に出席していた関係者の1人が、匿名を条件に取材に応じて言った。彼はシークレット・サービス側と実際に接触している人物である。

インターポールの事務局長はアメリカ人で、1993年から1996年までシークレット・サービスに勤務したロナルド・K・ノーブル。彼は、前職で得た機密情報について守秘誓約があるので、スーパーノートの詳細について話すことは辞退している。ノーブルによれば、シークレット・サービス側は、入手した情報について「その全てを自由に共有できるわけではない」と明言したという。

疑惑に関するもっとも決定的な反応は、2007年5月にスイスのBundeskriminalpolizei-偽造紙幣捜査を担当し、過去に米国財務関係者と緊密に活動したスイス政府機関からもたらされた。それによれば、スーパーノートの背後に北朝鮮が関与しているのは疑わしいとのことだった。

スイス警察機関の抱いた疑問の根拠は、1989年にフィリピンの目利き銀行家が発見して以来、押収された偽造紙幣の量がおよそ5,000万ドル分と少なく、紙や印刷のための機械を購入する金額にもならないということである。

スイス側がさらに疑問視するのは、北朝鮮にそのような高精細偽造紙幣を製造する高度な技術があるかどうかである。

「1970年代まで遡る印刷機を利用しているので、現在の北朝鮮は自国の紙幣すら酷い品質であり、この国が果たして高精度のスーパーノートを生産できるのか疑問視するのは当然である」スイス捜査機関は報告している。

さらに注目されるのは、印刷者が誰であれ、スーパーノートは少なくとも19種の版が存在しており、それぞれが合衆国側の刷版のわずかな変更と一致していることである。

「間違いなく世界でもっとも精巧な偽造技術だよ」ジェイムズ・コルビーは言う。彼は先ごろ引退したアリゾナ州前共和党議員で、シークレット・サービスの活動を監査していた。「どうやってこんなことができるのか、何が起きているのかわからない。北朝鮮がどうやってこのような高度な技術を手に入れることができるのかもわからない。非常に高度な技術なんだよ。」

これまで表沙汰になった証拠としては、2004年度に起訴されたショーン・ガーランドの件がある。彼はアイルランド共和国軍から派生したグループの指導者で、1990年代後半に、モスクワの北朝鮮大使館からヨーロッパへ、100万ドルを超えるスーパーノートを持ち込んだとの疑惑がもたれている。ガーランドは現在アイルランド共和国に在住しているが、アイルランド大使館の話によれば、米国政府は彼の引渡しを要求していないという。

米政府がどのようにして結論に至ったのかについて、北朝鮮に関する疑惑の普及を促した元米政府職員らの見方はそれぞれ異なっている。

国務省で北朝鮮の犯罪活動の詳細を収集していたデビッド・アッシャーによれば、彼のグループは紙幣偽造の証拠を見つけており、“諜報”に依存していたのではないと言う。

現在、ワシントンの保守系シンクタンクであるヘリテージ財団で調査員を務めるアッシャーは、詳細について明らかにしなかった。

しかしブッシュは、北朝鮮が偽造紙幣“スーパーノート”を製造している証拠について2007年8月8日に本紙が質問した際に、「諜報に関しては自由に話せる立場にない」と回答していた。

ブッシュ政権元高官で、北朝鮮に対する最も強硬な姿勢で知られるジョン・ボルトンは、本紙の取材に応えて、北朝鮮政府がスーパーノートを製造している物的証拠を目にしたことはないと語った。しかし彼は、北朝鮮がそうした偽造紙幣を流通させているという証言は、悪行の証拠として充分であると言っている。

米政府諜報機関のトップを務めた或る政府関係者の話によれば、彼は結論に至るに足る充分な情報を目にしていないという。

「独自に判断を下せるだけの諜報を目にしたことがなかった。」カール・フォードは言う。彼は、主として亡命者のニセ情報を元に、イラクの大量破壊兵器保有疑惑を唱えたブッシュ政権側と対立し、2003年度に国務省情報調査局長の職を辞した人物である。北朝鮮の疑惑について、ブッシュ政権側が詳細を明らかにすることを渋るのは「正当性が疑わしい」と彼は言う。

もうひとつの主要な証拠として、中国領マカオの小銀行が北朝鮮の偽造紙幣ロンダリングを支援したという疑惑が持ち上がったが、それもまた疑わしい。米財務省はバンコ・デルタ・アジア銀行をブラックリストに載せ、2007年3月に事実上銀行を閉鎖させることになる決定を下した。

しかし、国際会計監査企業アーネスト・アンド・ヤングがマカオ政府の依頼により実施した監査報告を本紙側が入手したところ、バンコ・デルタ・アジア銀行が関与した偽造紙幣事件はたったの一件だけであった。事件が発生したのは1994年で、偽造紙幣の流通元は北朝鮮ではなかった。銀行側は自ら偽造紙幣を発見し、捜査当局に通報していた。

マカオ政府は同銀行に対する制裁措置を解除したが、米財務省は“諜報”を理由に同銀行を引き続きブラックリストに掲載しながら、この銀行が北朝鮮に2500万ドル送金することを許している。

世界各国の銀行では今でもスーパーノートを押収しているが、ブッシュ政権はもはや公的に北朝鮮を偽造紙幣の件で非難することはせず、北朝鮮政府との核兵器計画交渉では議題に上ることもなくなった、と国務省関係者は語っている。

ブッシュ政権が嫌疑を撤回するのか、あるいは北朝鮮の核兵器計画を止める試みを脱線させないように、確固たる証拠の提示を避けているのかどうかは、疑問が残されたままである。

スーパーノートの流通元についても依然として謎のままだ。産業界の専門家、例えば米財務省印刷局の前局長を務めたトーマス・ファーガソンは、スーパーノートはあまりに精巧なので、米政府の印刷機械にアクセスできる何者かによって製造されたのではないかと言っている。

専門家の中には、イランが紙幣を偽造していると言う者もいる。他にも、ロシアや中国の犯罪組織が関与しているという専門家もいる。

偽造紙幣の件を扱った書籍『Moneymakers: The Secret World of Banknote Printing』の著者であるクラウス・ベンダーによれば、偽造された100ドル紙幣は、「もはやニセ札とはいえない。あれは本物と並行して違法に印刷された紙幣」とのことだ。

「もはや通常の偽札業者の能力を超えている」ベンダーは言う。彼の著作は、北朝鮮のスーパーノート製造はありえないと指摘した最初の文献である。「だいいち、あまりにも念入りで(しかも高額なので)偽造作業のコストに見合わないはずだ。」

ベンダーによれば、スーパーノートはあまりにも高品質で、頻繁に刷新されているので、それを製造できるのはCIAなどの米政府機関しかありえないという。

疑惑は論拠薄弱だが、先例はある。ジャーナリストのティム・ワイナーが著したCIAの歴史にまつわる新著では、CIAがソビエトの経済を弱体化させるためにいかにして偽札を流通させようとしたかについて詳細が書かれている。

高精度の偽造紙幣を限定的に使用することで、諜報機関や捜査機関は、腐敗した社会体制や、テロリストグループ他の不法活動、支払い、資金の流れを把握することもできるという。

「当然ながら我々はそのような主張に対するコメントはしない。いかに馬鹿げた主張であってもね。」CIA広報担当官マーク・マンスフィールドは回答した。
(以上)


さて、これまで北朝鮮のドル紙幣偽造疑惑については、米国では政府発表によって、日本国内ではフィクション小説等によって、「北朝鮮なら偽造してるだろう」という漠然とした印象、あるいはそれが事実であるという認識が持たれていたように思う。しかし、もしも今回のマクラッチー紙による暴露が事実であれば、ブッシュ政権側は北朝鮮の不法行為疑惑について、イラクの大量破壊兵器疑惑と同じように、裏づけ調査をほとんどせず、曖昧な“証拠”を根拠に超高精度偽造ドル紙幣“スーパーノート”の実在を唱えていたことになる。その場合、米国政府の目標は、ドル紙幣偽造疑惑の真偽について白黒つけることではなくて、「北朝鮮がいよいよ危険なことをしている」という悪印象をメディアを通じて広範に伝達させることにあったのだろうか?だとすれば、偽造疑惑を描いた“フィクション”のベストセラー化は、何を意味するのだろうか。

しかし一方で、マクラッチーの今回の報道の信憑性はどうか?今回のスクープが、米国政府の信頼性を損なうために北朝鮮政府によって仕組まれた印象工作だとすれば?・・・もしそうなら、この馬鹿げた騒ぎのために、北朝鮮政府はスイス政府機関を抱き込んで、アメリカ政府の掲げる“証拠”に疑義を唱えさせたことになる。(そういえば、北朝鮮の核施設建設にはスイスの大企業が絡んでいるし、その企業の重役はラムズフェルド国防長官だったという事実がある。)また、北朝鮮非核化交渉のプロセスで、北朝鮮側が対応を遅らせている最中に、米国新聞大手がこうした報道を大々的に行うというタイミングもまた、非常に興味深い。

まあともかく、米政府は北朝鮮がドル紙幣を偽造している疑いがあると言い、マクラッチー紙は偽造疑惑はガセである疑いがあると言い、専門家はそりゃ偽造じゃなくてホンモノだと言う。一方で日本政府の対応は?・・・かねてより福田首相がブッシュ大統領に約束したとおり、日本政府は11日に補給支援特措法を成立させ、インド洋での自衛隊による給油活動再開を決定した。年金問題で国内が騒然としている最中に、えらくあっさり最優先事項に昇ってしまっていたらしい。

結局のところ日本政府は、米国政府の絡む様々な政策について、その中身を一切問わず、どうすれば手放しで支援できるかを24時間365日、年末年始を問わず考えているのだろう。しかしこれではまるで、日本政府は米政府政策の“広告代理店”みたいなものだ。その内容物や表示内容が偽装された米政府発の外交政策を、中身も調べずに商品として大量販売し、消費者たる国民はそれを食べて少しづつ健康を害していく。そしてある日突然、しばしばメーカー側の内部告発によって、消費者はその偽装に気づくのだが、すでに食べてしまったものは返品できないという事実に愕然とすることになるのだ。

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10/20/2006

ラムズフェルドの北朝鮮コネクション

ラムズフェルド米国防長官

脅威マーケティングの権威ドナルド・ラムズフェルド


ラムズフェルド米国防長官と北朝鮮の核開発事業に関する小さなニュースリンクを以前紹介したが、その後詳細を伝える過去報道を発見したので以下に記事全文を翻訳して掲載する。(以前の記事とは若干報道事実が違っている)今回の記事は、2003年5月当時の米フォーチュン誌に掲載されていたものである。

国防総省の資産管理の大失態、イラク侵攻後の大失態アブグレイブ刑務所の囚人虐待-ラムズフェルドのマネジメント能力は惨めなものだが、クライシス・マーケティング分野(あるいは脅威マーケティング?)では比類なき才があるようだ。しかも、以下の記事からわかるように、「偶然そこに居合わせた」だけではなくて、世間の脅威から最大限の利益を得られるようにむしろ積極的に努力しているらしい

ラミーの北朝鮮コネクション:
ABB社の北朝鮮原子炉開発事業についてラムズフェルドは何を知っていたのか?
なぜ彼は沈黙しているのだろう?

フォーチュン誌2003年5月12日号

記事執筆:リチャード・ベアー 調査協力:ブレンダ・チェリー:フォーチュン誌2003年5月12日号掲載記事

ドナルド・ラムズフェルド国防長官は自らの主張を胸の内に留めておくようなことを滅多にしない人物である。敵に対しても妥協するようなことはない。そして、彼は北朝鮮の共産主義政権について明確に軽蔑している。そういうわけで、合衆国政府が北朝鮮に対して、核兵器開発計画の断念と引き換えに2基の軽水炉建設計画に同意し論議を呼んだ1994年の取り決めについて、国防長官の見解に関する公的記録が全く存在しない事実には非常に驚かされる。さらに驚くべきことは、その北朝鮮の軽水炉建設の設計と基本部位を提供する2億ドルの事業を受注した企業の役員に就いていた事実について、ラムズフェルド氏が沈黙していることである。

その会社は、スイス・チューリッヒを本拠とする巨大企業ABB社で、北朝鮮との契約は2000年に締結されており、ラムズフェルド氏が役員職を辞任してブッシュ政権に入閣するずっと前のことであった。ラムズフェルド氏は、1990年から2001年初頭まで、唯一のアメリカ人役員としてABB社取締役会に名を連ねていたが、当時その会社が北朝鮮の軽水炉開発事業契約受注競争に加わったことを公的には口にしていなかった。フォーチュン誌の調査でも、彼が同事業についてどういう考えをもっていたかについて示した公的記録は一切発見できていない。今年2月、北朝鮮の軽水炉開発について国防長官が果たした役割についてニューズウィーク誌に問われた際、国防長官の広報担当者ビクトリア・クラークは「(役員として)決済が問われた事項ではなく、」彼女の上司であるラムズフェルド長官は「そうした事業がいかなる時点で役員会に提示されたのか思い出せない」と回答した。

ラムズフェルド氏が果たした役割についてフォーチュン誌は詳細な説明を求めたが、同氏は回答を拒否している。しかし、ABB社広報担当者ビョルン・エドランド氏は、フォーチュン誌の取材に対して「役員達は当該事業について説明を受けていた。」と語った。さらに、他のABB社職員の話によれば、そのような巨額の重要な事業の場合は、複雑な法的責任問題も絡むために、取締役会の監査を通さないことはありえないという。「おそらく契約締結前に、事業概要を記した書類が役員会で提示されているはずです。」ABB社米国支社核開発事業部の前社長で、当該事業を指揮したロバート・ニューマン氏は言う。「役員なら当然知っていたはずですよ。」

平壌の開発事業に入札していた頃にABB社の役員を務めていた15人に本誌が問い合わせたところ、1人を除いて全員がコメントを拒否した。匿名を条件に回答したその役員は、当時のABB社会長パーシー・バーネヴィク氏が、1990年代中盤に役員会で北朝鮮の軽水炉開発事業について説明したという。「ABB社にとっては大きな出来事でした」前役員は言う。「それで、大規模な政界ロビー活動が行われたんです。」

前役員は、1990年代半ばにライバルのアメリカ企業が“外資系企業が政府の仕事を受注しようとしている”と不満を表明した件で、ラムズフェルド氏が「ワシントンでABB社のためにロビー活動を行うように依頼された」という話を憶えていた。前役員は詳しく説明できなかったが、1995年までABB社の発電設備事業を指揮していたゴラン・ランドベルグ氏は、「一時期ドン(ラムズフェルド)が関わっていたのは確実ですよ」と語った。ゴラン氏によれば、「合衆国政府との契約が必要な際は」役員の助けを借りて事業を受注することは珍しいことではなかったという。他の幹部経験者達はラムズフェルド氏の関わりについて憶えていなかった。

現在のラムズフェルド氏は、イラク戦争以来戦勝気分のせいか、北朝鮮の「体制変革」計画について検討していると伝えられている。しかし、原子炉開発をめぐるラムズフェルド氏の沈黙は、彼がABB社役員時代に何をしたのか-あるいは、しなかったのか-について重大な問題を提起している。ABB社の核開発事業に鋭敏な関心を示し、ほとんどの取締役会に出席してきたラムズフェルド氏が、他の役員を相手に自身の見解について示した証拠はない。確かに彼は当該事情を公にしたことがないが、ラムズフェルドを知る多くの人々は、軽水炉から核兵器使用可能な核物質を抽出可能として同氏に批判的な見方をしている。ラムズフェルドの同僚であるポール・ウォルフォウィッツ、ジェイムズ・リレイ、リチャード・アーミテージらは、北朝鮮との軽水炉開発取引に反対していた事実が記録に残っている。かつてラムズフェルドが選挙責任者兼国防アドバイザーを務めた大統領候補ボブ・ドール氏も反対だった。さらに、ラムズフェルド氏が役員に就任した基金から資金提供を受けたシンクタンク『核不拡散政策教育センター』所長のヘンリー・ソコルスキ氏は、1994年の取引に関して反対する急先鋒の1人だった。

ラムズフェルド氏の意図を知るひとつの手がかりとなるのは、1998年にヘリテージ財団で行ったスピーチである。その際、彼は軽水炉開発については触れなかったが、1994年の北朝鮮との枠組み合意は「核の脅威を終結させるものではなく、ただ単に罰を先延ばしするだけのもので、北朝鮮がどれだけの爆弾材料を入手するかについては確約がないままである。」複数の記事データベースを検索して当時の記事を調べた結果、1990年代を通じて、ラムズフェルド氏が北朝鮮の軽水炉を開発した企業の役員であった事実を伝える報道は見当たらなかった。そして、ラムズフェルド氏もそれを表明することはなかったのである。

すでに韓国で8基の原子炉を建設しているABB社は、合衆国政府がスポンサーとなった40億ドルの北朝鮮軽水炉開発事業計画に関して有利な立場にあった。同社は「事業受注は間違いなし」と伝えられていたと、同事業計画の責任者を務めたフランク・マレイ氏は言う。(同氏は、現在ウェイスティングハウス社で同じ役職に就いている。ウェイスティングハウス社は1999年に英国BNFL社に買収された。英国BNFL社はその1年前にABB社核開発部門を買収している。)北朝鮮の原子炉は、もともと韓国と日本の輸出入銀行から資金提供を受け、ニューヨークのKEDO(Korean Peninsula Energy Development Organization、朝鮮半島エネルギー開発機構)によって監査されることになっていた。「えこひいきではありませんよ」1997年から2001年までKEDOの事務局長を務めたデザイク・アンダーソン氏は言う。「単に実務的理由からでした。」

それでもなお、ABB社は同事業への関与を内密にしようと試みている。フォーチュン誌が入手済みの、ABB社からエネルギー省に送られた1995年の或る手紙によれば、同社は北朝鮮への技術供与に対し承認を申請すると共に、その当たり障りのない手紙を機密扱いにするよう求めている。「内密にされる理由は様々です。」ABB社の米国広報担当者ロナルド・カーツ氏は言う。「この巨額の事業は典型的ですが、契約というものはそんなに人目に触れるものではないのです。」

ABB社は事業にあたって目立たぬようにしているが、カーツや他の職員の話では、役員達は事業内容について知っていたはずだと言っている。前ABB社幹部のニューマン氏によると、リスク評価の概要を記した書類がバーネヴィク氏(前会長)宛てに渡っているという。バーネヴィク氏はフォーチュン誌の電話取材に回答しなかったが、チューリッヒ本社勤務でニューマン氏の上司ハワード・ピアース氏は、ラムズフェルド氏についてこう言った。「役員会に居たから、知っていて当然だと思うがね。」

関係者の話によれば、ラムズフェルド氏は実践的な役員だったようだ。かつてABB社世界核開発事業を率いたディック・スレマー氏によれば、ラムズフェルド氏は時々電話で核拡散問題について語ることがあり、その際「正しい方向性を理解させるのに苦労した」という。ピアース氏は、ラムズフェルド氏がABB社の核開発事業受注のために中国を訪問した事を思い出し、「一端思いついたら、考えを変えさせるのが困難な人物だった。彼の意見を変えるには猛烈にやらないといけない。」ABB社米国核開発事業部の前部長シェルビー・ブルワー氏は、コネチカット本社の会議でラムズフェルド氏と会ったことを思い出し、「素晴らしく才気ある人物だと思った。ヨーロッパ連中を相手に熱いナイフでバターを切るみたいにやりあったもんだ。」

関係者の誰も、北朝鮮の事業について話すラムズフェルド氏については記憶にないという。しかし、仮に彼が意見を隠しているとしたら、他の人たちは隠していない。共和党は最初から北朝鮮核開発事業に反対を表明しており、特に1994年に両院を制してからは顕著だった。「枠組み合意は署名して2週間後には政策上の孤児になっていた。」KEDOの初代事務局長で前駐韓国米大使のスティーブン・ボスワースは言う。枠組み合意がなぜ問題なのか理解するのは易しい。北朝鮮はテロ支援国家リストに含まれており、核拡散防止条約にたびたび違反している。1994年の枠組み合意の指揮を執った国務次官ロバート・ガルッチは批判に同意せず、言った。「もし合意がなかったら、北朝鮮は戦争するか核兵器を作るかのどちらかしかなかった。」

複数の専門家が指摘する問題は、軽水炉から兵器への転用可能な核物質を抽出するのは困難だが可能という部分である。「再処理はそれほど大変じゃありません」原子力委員会と原子力規制委員会の上級委員ビクター・ジリンスキー氏は言う。「特別な機材は要りませんよ。KEDOの連中はそこがわかっていない。未だにヘマを続けている。」

軽水炉開発に対する共和党勢の抗議の声を考えると、ラムズフェルド氏の沈黙はほとんど防音装置のようだ。「共和党員のほとんどは文句を言ってましたね」クリントン政権の東アジア・太平洋問題担当国務次官ウィンストン・ロード氏は言う。ロード氏はラムズフェルド氏の主張について憶えていないという。反KEDOを熱烈に唱える国防政策センターのフランク・ギャフニー・ジュニアもまた同じだ。ギャフニー氏によると、ラムズフェルド氏はABB社役員としての立場が議論を巻き起こすことを避けているという。

1998年には、ワシントンで議論が沸騰し、軽水炉開発の遅れは北朝鮮を苛立たせた。兵器査察官はもはや北朝鮮の核物質の在庫を確認できなくなった。それでもマレイ氏によれば、1998年のある時点で、ABB社は公式な「入札の招待」を受けたという。その時ラムズフェルド氏は何処に?その年、彼は下院主催の研究会議で大陸弾道ミサイル危機に関する機密情報を検証していた。その会議では、北朝鮮が合衆国本土を5年以内に攻撃可能になると結論が出た。(報告書が出されて数週間後、北朝鮮は日本に向けて3段ロケットを発射した。)さらにそのラムズフェルド氏の会議では、北朝鮮が核兵器開発プログラムを継続していると結論づけたが、そのようなプログラムを阻止するはずの軽水炉事業の件については巧妙に省かれていた。同会議の報告書に記されたラムズフェルド氏の経歴には、彼がABB社役員であるとの記述もなかった。

ホワイトハウスを去る直前、クリントン大統領は北朝鮮がミサイル開発と核開発を諦める代わりに支援再開と関係正常化を図る大胆な取引を持ちかけるつもりでいた。しかしブッシュ大統領は北朝鮮側の意図に懐疑的で、2001年3月に政策再考を呼びかけた。その2ヵ月後にエネルギー省は、ラムズフェルド指揮下の国防総省と相談した結果、北朝鮮への核開発技術供与の再承認を行った。ウェスティングハウスと北朝鮮高官が出席する起工式は2001年9月14日に開催された-米国本土に対する史上最悪のテロ攻撃が発生してから3日後である。

ブッシュ政権は未だに北朝鮮核開発事業計画を破棄していない。エドワード・マーキーと他の議員達は、ブッシュとラムズフェルドに対し、彼等が「核爆弾製造工場」と呼ぶ軽水炉事業への支援を取りやめるよう手紙で要請した。それにもかかわらず、コンクリート注入セレモニーが昨年8月に開催され、ウェスティングハウスは北朝鮮に対し10月まで技術訓練プログラムへの支援を行った。その直後に北朝鮮側は極秘ウラン再処理計画を認めて、武器査察官を追い出し、プルトニウム抽出を行うと発表した。ブッシュ政権は核開発技術供与の延長を停止したが、1月に北朝鮮の事業計画に対し350万ドルの予算を承認している。

遅かれ早かれ、率直な物言いで知られる国防長官は自身の沈黙理由について説明してくれるはずだ。

(以上)

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10/13/2006

ブッシュ:「なんで俺が北朝鮮のことを心配しなきゃならないんだ?」

ボブ・ウッドワードの最新著作『State of Denial: Bush at War, Part III』によれば、大統領就任前のブッシュは北朝鮮について非常に興味深い話をしている。source

以下に、書籍から一部翻訳して引用:

ジョージはバンダル王子を脇に座らせて言った。「バンダル、君は世界についてよく知る最高のダチだ。ひとつ教えてくれよ」

「知事殿、何のことでしょう?」

「なんで俺が北朝鮮のことを心配しなきゃならないんだ?」

私にもわからない、とバンダルは言った。彼がファハド国王のために取り組むことのない少数の国家のひとつが北朝鮮だった。

「世界の隅々の国について説明を受けるんだが」ブッシュは言う。「皆が北朝鮮のことを話すんだよ」

「知事殿、」バンダルは言った。「あなたが北朝鮮を心配する理由について、ひとつお教えしましょう。」

「いいとも、お利口さん」ブッシュは言った。「教えてくれ」

「北朝鮮の国境付近には3万8,000人のアメリカ兵が駐留しています。(中略)少なくともこれは重要な点ですよ。国境を越えて一発やられれば、たちまち兵士の半数が死ぬでしょう。化学兵器や生物兵器、あるいは通常兵器であれ、1万5,000人ほどの米兵が死んで、合衆国は途端に戦争突入です。」

「フーン、」ブッシュは言う。「他の連中も、ズバリ単刀直入に言ってくれりゃいいのにな。北朝鮮の歴史の本を半分くらいまで読んでたところだよ。」

「では、もうひとつの答えをお教えしましょう。もう北朝鮮の心配はしたくないでしょう?」バンダルは聞いた。このサウジアラビア人は、アメリカが東アジアの紛争に巻き込まれることなく中東政策に集中するよう望んでいた。

「そうは言ってないよ。」ブッシュは応えた。

「ですが、もし気にしたくないのでしたら、(在韓)駐留米軍を撤退させてみてはいかがでしょう。そうすれば、単なる地域紛争になります。ゆっくり事態を検討する時間ができますよ。“介入すべきか?せざるべきか?”という具合に。」(以下略)


ブッシュとバンダル王子

2002年8月27日、テキサス州クロフォードの私邸で談笑するブッシュ大統領とバンダル王子(当時は駐米サウジアラビア大使)。

ワシントンポスト紙の軍事評論で知られるウィリアム・アーキン氏の著作『Code Names: Deciphering US Military Plans, Programs, And Operations In The 9/11 World』(2005年刊)によれば、韓国内80ヶ所の米軍施設に駐留する兵士数は約3万7,000人。バンダル王子の外交プロとしての優秀さが伺えるやりとりである。

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